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奇妙な仕事

2015.07.03 (Fri)
じゃあ話すけどよ。ある宗教組織がかかわってるみたいなんだ。
もしここで話したことによって、そことアヤがついたら、
あんたらで何とかしてくれるのか? できるかぎりのことはするって?
そうか、じゃあ。俺はよ、最近までずっとホームレスだったんだ。
その前は大学の研究者だ。嘘じゃねえよ。ほら、この本。
ルポライターがホームレスにインタビューしたやつなんだが、
これに俺が出たんだよ。このライターはちゃんと裏とってるから。
ここに書いてある俺の略歴は本物だよ。
京大から筑波の大学院、これが最終学歴だったんだ。
それがどうしてホームレスまで堕ちちまったのか・・・
というのは、ここで話す内容じゃねえよな。

この本が出てから、他のマスコミからも取材が来たんだ。インテリホームレスってな。
さすがにこの齢だからか、大学関係から再就職のお呼びはかからなかったが。
その代りっていうか、本が出てから1か月ほど後に、
俺のテントを変なのが訪ねてきた。黒いスーツの上下で、
サングラスかけた映画の悪役みたいなやつだ。ただ、話し方はていねいで、
威圧的なところとかは微塵もなかった。だから俺も正体を図りかねてね。
ヤクザもんとならそこそこ付き合いはあったが、それとは違う。
まあ、一番近いのが宗教なんだろうな。新興宗教関係。
でよ、そいつから奇妙な提案をされた。
「これから冬に向かうにあたって、テント生活も辛いでしょうから、
 よろしければ新居を提供いたします」って。

で、これがよ。やることは、基本的にはそこに住んでいるだけ。
家賃はなしで、その上に月50万くれるってことだった。
でもよう、そんなウマイ話なんてありえねえよな。それで詳しく話を聞いてみた。
したらそれが、かなり奇妙な内容だったんだよ。
新居は新興住宅地にある一軒家。ただし、他の家々よりは多少小さい。
いわくつき物件とかじゃないよ。正真正銘、俺が入る直前にできたものだったんだ。
中は奇妙な造りでね。1階は4畳半が5部屋。2階に風呂トイレと1部屋で、
俺はふだん2階で生活するように言われた。
そっちに冷蔵庫や、簡単な流し台もあったんだ。要は下に居るなってこと。
下は4つの4畳半が、真ん中の部屋をぐるっと取り囲むようにできてた。
その真ん中の部屋はやっぱ4畳半くらいだけど、洋間の応接室になってたんだ。

「もし訪問販売のサラリーマンが来たら、その部屋に通して話を聞いてくれ」って。
これが仕事といえば仕事だったんだよ。
その部屋の造りか・・・よくある革張りの応接セットがあってね、
あと家具は客側のソファの後ろにサイドボード一つ、それだけ。
サイドボードの上に、60cm立方くらいの白い木箱があった。中身は何かって?
まあそうせかすな。おいおい話していくから。
応接セットは、客側が長ソファ、主人側が2つの1人掛けっていうよくあるやつ。
セールスマンは必ず長ソファのほうに座らせるんだ。
部屋の内装は基本は黒だが、客用と主人用のソファで壁の色が違っててね。
俺が座るほうが真っ黒で、セールスマン側は銀箔みたいなのが3面にはられてて、
うすらぼんやりだが、人の姿も映った。・・・想像つくかねえ。

あと木箱の中身な。俺が入居するときに、
最初のやつと同じ黒スーツを着たやつが何人か来て運び込んだんだ。
重い感じじゃなかったな。テントに来たやつに「それ何だ?」と聞くと、
「ああ、気になるでしょうね」そう言って中を見せてくれた。
あれは白木だな。一木彫りして塗材を使ってない布袋様の像だった。
いやあ、普通よくあるもんに見えたな。腹の出た半裸姿で、片手に大袋、
片手に打出の小槌ってやつだ。俺が訝しがってると、男は、
「これで気が済んだでしょう。もう開けられませんから」そう言って、
茶箱のように上からかぶせるフタの上から、
本体と同じ色の白い和紙で、何重にも封印してしまったんだよ。
この紙をはがさなきゃ、もう開けることはできないってわけだ。

・・・最初はぽつり、ぽつりだったな。訪問販売のセールスマンだよ。
「こちらから、ここに入居したのは金持ちの独居老人だという噂は流しときますから、
 あなたのほうでも、勧誘の電話やダイレクトメールで、
 この家に人が訪ねてくるようなのは、積極的に返事をしてください。
 布団でも浄水器でも、何でも買ってもかまいませんよ。
 それはすべて必要経費として、報酬とは別途に出しますから」
で、3日に一度くらいずつ訪れてくる訪問販売を、
例の応接室に案内して話を聞いてたわけだ。
でな、これが妙なことに、女のセールスレディってのは長居しないんだ。
まあ俺はジジイで、女に興味を持つ齢でもないし、
向こうが勧めるもんに買うようなのはないから、そのせいかと思った。

けど、だんだんにそうじゃないことがわかってきた。女はよ、
総じてあの部屋に忌避感を持つみたいなんだ。入って15分もたたないうちに、
何か理由を見つけて帰ってしまうんだ。いやあ、
本人らにも理由はわかってなかったんじゃないか。とにかくあたふたとな。
男のセールスマンはどうなるかって? これがだいたい同じパターンだったが、
なかなか面白い見ものだったぞ。例のソファに腰かけて、
おもむろにテーブルにパンフレットとかを広げ、自慢のセールストークを始めるが、
流暢なのは最初の10分くらいだな。だんだんに目が泳いだようになって、
呂律が回らなくなる。しゃべってる本人もな「あれ、変だな」って顔をして、
自分の額に手をあてたりする。だいたいは30分もいればダウンだ。
だらだら汗をかいて「体調が悪いんで今日はスミマセン」って出ていくんだ。

2回目に来た猛者も何人もいたよ。でもよ、そういうやつらは悲惨なことになった。
鼻血を出すんだ。ツーとかじゃなく、盛大にドバッと。
それがわかってからは、あらかじめテーブル下にテイッシュの箱を用意してた。
まあ、これで帰ってしまうやつがほとんどだったが、
応接室で倒れ込んで、救急車を呼んだやつが3人いた。
手足に力が入らず、動けなくなったんだ。ただ、どいつも意識はあったから、
俺が病院についていくということはなかったな。あかの他人だし。
救急隊員には、「ここで話を聞いてたら急に具合が悪くなったみたいで」
こう言うしかないだろ。実際その通りなんだから。
ただなあ、3人も訪問販売が同じ家で倒れたとあっては、
さすがに変だなと思うやつが消防署に出てくるかもしれねえ。

管内の同じ署から来てるんだし。たぶんそんな事情でこの仕事も終了になったんだろ。
半年間で、そうだなあ。訪問販売のやつは100人は来たよな。
で、例外なく男はすべて具合が悪くなった。3度目、来たやつはいなかったし、
家に来たセールスマンを町の他の場所で見かけたこともない。
さあねえ、どうなったんだろうね。あまり考えたくないね。
で、半年後、仕事が終了するってときに、また黒服たちが何人もやってきたが、
4人がかりででかい金属の箱を持ってきたんだ。薄い金属板だったがかなりの重さで、
あれは鉛製のもんじゃなかったかと思う。でよ、そん中に、
白木の布袋様の入った箱をすっぽり入れて持って帰ってったよ。
中がどんな風になってるかはわかんないよ。俺は近づかなかったし。
そんなの、まともな頭を持ってればわかるだろ。

セールスマンたちの具合が悪くなったのはあれのせいだって。
でよ、俺の手元に残った金が200万ほどだ。
今はのんびり暮らしてるが、これがなくなったらまたホームレスに戻るかもしれねえ。
別にホームレスの暮らしも悪くはねえよ。なんたって悩みがない。
そりゃ病気は怖いが、ごちゃごちゃした人間関係とかはねえからな。
いや、体の具合は悪くはない。いたってぴんぴんしてる。
あと話すことは2つだけだな。一つは、この仕事中住んでた建売住宅を見にいったら、
取り壊されて、真新しい小さな神社に変わってたこと。もう一つは、
駅の待合室のテレビで見たんだが、この間手入れがあった新興宗教の本殿。
そこの何重にもなったガラスケースに入ってた布袋像が、
箱の中のとよく似てたんだよ。ただし、色が血のような真っ赤だったがな。

あひこう




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コメント
 本来おめでたいものが邪術の道具に転じると、なかなか不気味ですね。わざわざこの語り手氏が抜擢されたことにも意味がありそう。「どうしてホームレスまで堕ちちまったのか」をぜひお聞きしたかったw
 ところで、布袋は七福神のくくりで考えると、失礼ながらやや神格が劣る感じなんですよね・・・弥勒の化身という説もあるようですが。あ、七福神の無節操さはとても日本的で好きですw
| 2015.07.14 18:20 | 編集
コメントありがとうございます
えー布袋様は実在の和尚さんでしたっけ
なぜ七福神に選ばれてるかもよくわかんないです
あの枕の下に入れる七福神の絵には怖いものもありますね
bigbossman | 2015.07.14 21:57 | 編集
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