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名誉の家

2015.07.11 (Sat)
昭和40年代後半頃の話だよ。俺がまだ小学生の時分な。
小学校の4年から6年まで、その3年間、
夏休みは父親の田舎のばあちゃんの家に預けられたんだ。
場所は言わないで置く。だいぶん年月はたったが、あれこれマズイことあるだろうから。
両親が共稼ぎだったんだよ。母親はミシンのセールスをしてて、
ふだんから団体職員の父親より帰りが遅かった。
だから夏休みは昼飯つくることができないんでってことだったろう。
俺としちゃ不満だったなあ。だって友達と遊べないから。
まあ、山には自然があったけど、テレビはチャンネルが少ないし、
ばあちゃんは夜早く寝るしね。向こうの子どもと友達になるなんてこともなかったな。
これは一軒一軒家が離れてたせいもあるけど、それだけでもなかった。

なんとなくばあちゃんの家はそのあたりで敬遠されてたんだよ。
これは今だからわかることだけど。ばあちゃんは当時まだ60になったばかりでね。
元気なもんだった。炎天下でも毎日畑に出て昼飯どきに戻ってくるんだ。
山だから田んぼはわずかしかなかった。畑作中心、あと養蚕をやってる家もあった。
俺は、起きて朝飯を食うと、ばあちゃんについて畑にいくか、
家でごろちゃらしたり宿題やったり、一人で虫捕りに行ったりって生活だった。
川で釣りもしたよ。いや、危険なことはなかったね。
渓流だったけど足首くらいまでの深さしかなかったし、
雨もあんまり降らない地域だったから、増水するってこともなかった。
ああ、よく知ってるね。ばあちゃんに禁じられてたことはあったよ。
ほら、昔の農家だから縁の下が高かったんだ。

そこにだけは入るなって言われてた。そんなにきつくじゃない。
下には古い農機具がしまい込まれてて、中には刃がついたものもあるからってことで。
いや、最初から入る気なんてなかった。
子どもでもかなり頭をかがめなきゃなんなかったし、蜘蛛の巣だらけでね。
ただね、ばあちゃんは朝、クワ持って畑に出かける前に、
必ず手を叩いて縁の下を拝むんだよ。これは不思議だった。
もちろんなんでそなことするのかって聞いた。したら、
「縁の下には神さんがおるから。うちには特別に強い神さんがおるからの」
こんな答えが返ってきたよ。意味不明だったねえ。
とにかく、留守中に家を守ってくれる神さんってことだった。
で、ばあちゃんが畑に出ると退屈な俺の一日が始まるってわけ。

でね、そこの地域は獣害がひどかったんだ。
シカが一番で、たまにイノシシとサルだな。ただサルはほとんど見かけなかったし、
イノシシだって冬場のことだから。
たいがいの家では、主要作物・・・つまり自分らが食べるだけじゃなく、
出荷する野菜を作ってる畑は木の柵で囲ってあった。
今でもあるらしいよ。ただ、金網と電気柵に進化したみたいだけど。
それでもやっぱ被害は出る。それでその夏は、猟友会のハンター連中を町で頼んで、
駆除することになった。そこらでは猟銃免許持ってる年寄りも多かったが、
やっぱいろいろ危ないからってことだったろう。
でもよ、ばあちゃんの畑は、柵はないのに何の被害もなかったんだよ。
ある日の午後、ばあちゃんが畑から帰ってきて昼飯を食った後、

町の自治会かなんかの人かなあ、中年の男のが訪ねてきたんだ。
害獣駆除のための寄付金を集めてるってことだった。
で、ばあちゃんと縁側に座ってこんな話をしたんだよ。
「○○さんとこは名誉の家だから、獣どもは近寄ったりせんだろうが、
 これも役目でね」 「ええよ、ええよ。寄付は出すから。千円でええのか」
「すんませんなあ」ここで出てきた「名誉の家」ってのがよくわからなかったから、
あとでばあちゃんに聞いてみた。したら「戦死者を出した家ってことだよ。
 お前のじいさんは先の大戦で戦死して、そのことだろ」この話は聞いてたし、
ばあちゃんの家の仏間には、軍服を着た立派なじいさんの写真も飾られてた。
俺の父親と弟を残して、出征したじいさんは帰って来ず、
残されたばあちゃんが、戦後の混乱期に苦労して子育てしたんだ。

そのおかげで、こうやって俺も世に出たわけだし。
・・・じいさん、じいさんって言ってるけど、その遺影に写ってるのは、
黒々した髪の青年といっていいような人だったよ。
まだ30代になったばかりだったろう。
ああ、すまん長話になってきたな。害獣駆除があって2、3日後だ。
夜中に家の外が騒がしくて目が覚めたんだ。
でな、獣が鳴くような声がするんで起きてみたわけだ。そこらは泥棒なんていないんで、
雨戸を開けて蚊帳を釣って寝てたんだよ。そっから出て、縁側にいってみた。
そしたら街灯もない闇でよくわからなかったけど、
ぎゃんぎゃん騒いでるのはサルの声みたいだった。それも数匹。
尋常の騒ぎ方じゃなかったんで、奥で寝てるばあちゃんを起こしに行ったんだ。

したら布団にばあちゃんがいなかったんだよ。で、最奥の仏間を開けたら、
ロウソクが灯ってて、ばあちゃんが仏壇に向かって拝んでたんだ。
「ばあちゃん、外で・・・」こう言いかけたとき、外の音がピタッと止んだんだ。
「おや、起きたかい。外はもう済んだみたいだから、蚊帳に戻りなさいな。
 この家は守り神さんが守っててくださるから。朝になれば何が起きたかわかる」
で、気になったんで翌朝早くに庭に出てみたら、
サルが3匹倒れて死んでたんだよ。ニホンザルだと思うけど、
やつらは夜行性じゃないんだよな。で、その死に方がひどかったんだ。
3匹とも目を剥いて、胸が何かで締めつけられたようにへこんで、
口と尻から血の固まりと内臓を吐きだしてたんだよ。おびえてると、
ばあちゃんが出てきて村役場に電話をかけ、猿の死骸はとりかたづけられた。

ま、この年はおかしな出来事はこれっきりで、
あの事件が起きたのは俺が6年生のときのことだ。
やっぱばあちゃんの家にいたんだ。その夏休みが終わるころだったなあ。
夕暮れどき、ばあちゃんは流しで夕飯を作ってて、俺は縁側で涼んでたんだよ。
したら家の前の砂利道に大きなトラックが来たんだ。
そこらでは軽トラしか見かけなかったんで珍しかった。で、中から男が2人、
背広の上下を着たやつと、もう一人ランニングシャツに作業ズボンのやつが出てきた。
こっちに向かって歩いてきたんだよ。最初は薄暮でよくわからなかったけど、
生垣の木戸を開けて入ってきたとき、ランニングのやつの肩に刺青が入ってるのが見えた。
それで怖くなった。うん、何か普通じゃない雰囲気を漂わせてたっていうかな。
で、背広のほうが俺を見て「ボク、家の人はいるかい」って声をかけてきた。

で、答えないでいるうちにずんずん近づいてきて、
ランニングのやつが俺のシャツの背中をつかんだ。「ばあちゃん!」って叫んだとき、
目の端に動くものが見えたんだ。それは縁の下から出てきてね、大きな蛇だったんだ。
長さは3mくらいかなあ。外国のニシキヘビとかに比べればたいしたことはないが、
太さは大人の脛くらいもあったよ。蛇は地面を素早く這って、
俺のシャツをつかんでたランニングの足に絡みついて引き倒した。
そいつはものすごい勢いで倒れて、縁石に頭を打ってのびてしまった。
背広のほうはあっけにとられてたが、蛇だって気がついて体をぞくぞくって震わせ・・・
大蛇はぎゅん頭をもたげ、脇の下から入ってそいつの胸に巻きついた。
そんときに初めて気がついたんだよ、蛇の頭に黒々と髪の毛が生えていることにね。
この後はどうなったかわからない。俺は家の中に逃げ込んだから。

したら、流しにいるはずのばあちゃんが奥の部屋から出てきて、電話をかけたんだ。
警察にだよ。それから俺を抱き寄せて目をふさぐようにしたんだ。
・・・まあこれで話は終わりだ。2人は死んではいなかったが、背広は肋骨が何本も折れ、
ランニングは頭の骨折と脳の損傷で長期間入院したってことだった。
県内の大きな市で抗争をして、指名手配中の筋者だったんだな。
なんでばあちゃんの家に来たのかはわからない。たまたまかもしれないし、
じいちゃんの戦前の知り合いだったのかもしれない。
野生動物に襲われて負傷したところを逮捕ってことで、
ばあちゃんが何度か警察に呼ばれて事情を聞かれた程度で済んだ。
俺は中学に入って、部活のためばあちゃんの家に長期滞在することはなくなったが、
お盆には両親と行ってた。あの蛇はその後一度も目にすることはなかったね。






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