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砂人

2015.07.14 (Tue)
俺じゃあなくって隣の家のおやじのことなんだけどよ。
いや、死んじゃいねえ。まだ生きてはいるけどよ。うん、今から話す。
俺んちは郊外の住宅地にあって、100坪ほどもある。
そのかわり通勤距離は長いが、まあそれはしかたねえ。
都会のマンションよりかは、ちょっと田舎でも庭つきの1軒家を持ちたかったから。
ローンはあるけど、そこらはみんなそうだから、
一種の連帯感みてえなもんはあるよ。トラブルはほとんどない。
で、隣のおやじなんだが、今年で64歳になるんだ。
長年町工場に勤めてたのが、60歳で定年退職して3年間再雇用。
町工場って言っても、超2流企業・・・つまりは優秀な技術を持った中小企業だった。
だから退職金も悪くなかったらしいよ。

で、おやじは去年の4月からいよいよ念願の悠々自適の隠居生活に入るはずだった・・・
んだが、それが予定通りにはいかなかったのよ。
そうそう、よくわかるね。熟年離婚ってやつ。奥さんのほうから切りだされたんだ。
いや、奥さんは品のいい人で顔を見るたびに挨拶してたよ。
お花の師匠の免許持って教室開いてて、うちの娘も教えてもらったんだ。
だから、浮気とかそういう話じゃねえ。
ただ、旦那の定年を期に、自由に暮らしたいってことだったんだ。
隣のおやじ・・・Nさんってことにしとくか、にとってみれば青天の霹靂よ。
あの何でも言うことを聞いてた奥さんが、
そんなことを言い出すなんて思ってもみなかったろう。
だから茫然自失して、言われるままに判子押しちまったんだ。

で、家はNさんのほうに置いてく代わりに、
退職金は半分以上取られちまったらしい。え、子どもさん?
隣は息子さん娘さんがいて、2人ともとうにに独立してるからな。
どっちについたかどうかはわからねえが、
離婚してからもたまにNさんとこへは顔を見せてたよ。
金の面は心配はねえと思うよ。一人暮らしでローンも完済してるはずだから、
年金だけで十分にやっていけるだろ。ただ、やっぱショックだったんだろうな。
ひどい落ち込みようで、家からあんまり出てこなくなっちゃった。
面倒見のいい人だったから、ほんとうは地区のほうじゃ、
退職を期に町内会の仕事や民生委員なんかを頼みたかったんだが、
そんな事情でね、むしろNさんのほうが心配される側になってしまったわけだ。

うちとは仲がよかったよ。顔を合わせれば世間話とかはしてた。
それがね、買い物以外は家にこもりっきりになっちゃったんで、
釣りとかに誘ったらどうだって、家の子どもらにも言われてたとこなんだよ。
でね、隣の家はなかなか立派な庭があってね。
子どもさんらが大きくなってから建てたんで、居住スペースを少なくして庭を広くとった。
年に数回は庭師が入ってたんだけど、それが放置状態になって、
1年間で雑草がぼうぼうだよ。ああ、もったいないなって思ってた。
それがね、今年の4月から、庭でちょくちょくNさんの姿を見るようになった。
電動草刈機を持ってたり、クワ持ってたり。
だから元気が出て、庭仕事をやるきになったのか、
よかったなって思ってたけど、ちょっと様子が違った。

Nさんが「えい、えい」って気合を入れて刃物を振り回してるだけで、
雑草はさっぱり減らないし・・・ それでね、Nさんの姿が見えたときに、
「何してるんですか?」って聞いてみたんだよ。そしたら返ってきた答えが、
「庭に小人がいる。草の中に隠れてるが、夜になるとベランダにやってきて、
 手の跡をガラスにつけたり、俺の方を見て笑ったり悪さをしやがるんで、
 今退治してるとこなんだ。何匹か首を切ってやったがいっぱいいる」
・・・これっていかにもマズいだろう。
だってねえ、小人なんて西洋の童話じゃあるまいし。
その日ね、家でこの話をしたら、それこそ民生委員に相談するか、
でなきゃ子どもさんとこに連絡したほうがいいんじゃないかって話が出たくらいだよ。
ただまあ、外に出て変なことするわけじゃないから、もう少し様子を見てようって。

その後も夕方になると庭に出て「えいえい」やってたから、
「小人でしたっけ、どんくらいやっつけました?」って、俺のほうから声かけてみたんだ。
したら、「いやね、もう100匹以上は駆除したんだが、こいつらきりがない。
 やっつけてもやっつけても出てくる」こんな返事で。
「見せてもらってもいいですか」って言ってみたんだよ。したら手招きしてきたから、
裏木戸から中に入ってみた。雑草の中に黒っぽい、
そうだなあ、直径8cmくらいの土団子が山と積んであって、それを、
「これ、これまでにとった小人の首なんです」って見せてよこしたんだよ。
でもよ、目も鼻もないただの丸い土くれで、表面が滑らかだったんで、
Nさんが手でこねてこさえたもんにしか見えなかった。
その場は適当に相槌を打って戻ったが、これはマズいなあ、いよいよかなって思った。

それから数日して、Nさんの庭に外部の工事が入ったんだ。大規模の造園会社だよ。
どうなるんだろうと思ってたら、大きく育った庭木を全部引っこ抜き、
池も埋めちゃってね。土を一皮掘り起こして砂を入れちゃたんだ。
庭があったところに巨大な砂場ができたって言えばわかりやすいかねえ。
工事中、Nさんが外に出てたんで、生け垣越しに声をかえてみた。
「ずいぶんさっぱりしましたねえ、鳥取砂丘みたいだ」って。そしたら、
「これまでね、小人のことでいろいろ愚痴を聞いてもらいましたが、
 こうしちゃえばもう土の中には逃げ込めんでしょうし、一段落ですよ」
こんな答えが返ってきたんだよ。でもよ、その後もやっぱ、
夕方にはNさんの姿を庭に見かけたし、「えい、えい」って声も聞こえたんだ。
そんな状態でね、3日前の夜になったわけだ。

7時過ぎかな。俺がちょうど晩酌を始めたあたりのときだよ。
ちょうど帰ってきた息子が「Nさんが庭で大声をあげて叫んでる」って知らせてよこした。
それで、見に行ったんだよ。場合によっては、心療内科とかにかかることを勧めるつもりだった。
したら、生け垣越しにシャベルを持ったNさんの姿が見えて、
それが満面の笑みだったんだよ。俺を見てカラカラ笑い、
「やあ、小人の親玉を退治しましたから。これで、もう出てこんでしょ。
 いやあ苦労した。どうですか、見ますか」って言ったんで、入ってったわけよ。
そしたらね、街灯とベランダからの明かりで見える庭一面に、
やっぱ丸い玉が落ちてるわけ。泥団子から、水を含ませた砂団子に変わってたわけだ。
Nさんが「こっちこっち」って言うから、横手のほうへ回っていった。
そしたらね、そこはひときわ砂が高く積まれてたんだけど、

その砂山の前に等身大の砂人形があったんだよ。いや、もちろん砂だから、
立ってる人形じゃねえ。人の寝姿になってたんだが・・・それがね、
体の部分はおざなりだったが、顔だけ非常に精巧にできててねえ・・・
そう、よくわかったな。出て行った奥さんの顔になってたんだよ。
実際に人が埋まってて、その上にうっすら砂をかけたのかと思ったくらいだったが、
そんなわけはねえ。それ見てね、ああこの人はやっぱ、奥さんのことを恨んでたんだろうな、
って思ったわけ。でね、Nさんは、「こいつさえいなくなれば、
 もう庭小人どもも出てこんでしょう。こいつめ、こうしてやる」って言って、
シャベルを振り上げて、その砂人形の首に打ち込もうとしたわけ。
でなあ、そんときに確かに見たし聞いたんだよ。
Nさんの奥さんの砂人形がね、ぱちっと目を開けてこう言ったんだ。

「あんたがこんなだから、私が出て行ったんだよ」って奥さんの声で。
それ聞いてNさんは逆上して、滅茶苦茶にシャベルを打ち込んで、さらに足で踏みつけた。
それから、何事かわめきながら走り出て行っちゃったんだ。
面目ないが、俺も驚いてしまってて、止める暇がなかったんだよ。
砂はもちろん調べてみたが、やっぱただの砂で、人が埋められてるってことはなかったね。
いや、離婚した奥さんともそれから連絡をとったんだ。
実家の近くにいて、ぴんぴんしてた。でねえ、Nさんはその後、
駅のほうに行って暴れたらしくて、警察に収容されてしまったんだよ。
ケガ人とか出なかったのが幸いだったけど。今日、息子さんたちがもらい受けにいってるはずだ。
ま、こんな話で、不思議なとこっていうと、奥さんの砂人形が口を聞いたことだけなんだが、
確かに見たんだよ。唇も動いてた。ありゃ、どういうわけなんだろうねえ。






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