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お守り

2015.07.25 (Sat)
小学校の3年生のときのことですね。
ええ、自分としてははっきり覚えているつもりなんですけど・・・
ただね、自分の記憶に間違いがないとすれば、そこから見えてくることは一つなんで・・・
記憶違い、勘違い、間違いであってほしいんです。
何から話をすればいいですかね。お守りのことからにしますか。
今はありませんが、自分が物心ついたときには、
つねに首からお守りをぶらさげていたんです。白いタコ糸を太くしたような紐の先に、
平べったい木の板がついた。その木の板は人の手のひらの形に彫られていて、
親指と小指をのぞいた3本を伸ばしている。
手のひらの側はちゃんと手相が描かてていて、
自分の手相と較べてみるとよく似ているような気がしました。

小さなものなんで微妙なんですけどね。そうですね、大きさは5cm四方くらいでした。
手の甲の側は木目が出ていて、そこに奇妙なマークが黒く描かれてました。
描かれてっていうか、焼き印みたいなものなんだと思います。
指でなぞると少しへっこんでましたから。それを肌着の下にいつもつけてたんです。
風呂に入るときも・・・母にそうするように言われてたんです。
母は、当時父とは再婚だったんです。父の前の奥さんは事故で亡くなっています。
その後に母と知り合って結婚し、自分が生まれたんです。
でね、兄がいたんですよ。歳は3つ上ですが、父と前の奥さんとの子どもだったんです。
自分とは仲がよくありませんでした。いや、自分のほうは仲よくしたかったんですよ。
でも、兄のほうでことあるごとに意地悪をしてきて・・・
母は、少なくとも小遣いや服なんかを与えるときは公平に扱っていたと思います。

でもね、やっぱり実の子どもではないわけで、
そういう点が兄にも伝わったんでしょうね。お互いに打ち解けない、
よそよそしい話し方しかしませんでした。それと兄は、母の仕事をはっきり嫌ってました。
あの・・・新興宗教の教祖みたいなことをしてたんです。
元は四国生まれで、そういう家系の出身で・・・
それほど大規模なものではありませんでした。信者さんの数も数百くらいだったはずです。
それに悪どいお金集めのようなこともしてませんでしたし。
父は会社員をするかたわら、母の教団の経理なども手伝ってましたね。
ああ、前置きが長くなってしまってすみません。
そのね、3年生のときの5月11日のことです。この日付だけは絶対忘れません。
連休の次の週の日曜日だったはずです。

午前中、朝食を食べてすぐ、兄が近所の公園に遊びに出ようとしたんです。
まだゲームなどは店にあるくらいで、家庭用のファミコンなどは普及してなかった時代です。
外で遊ぶ子どもらが多かったんですよ。そのとき、自分もいっしょに出ようとしました。
いえ、兄といっしょにに遊ぶってことじゃなく、
公園に行けば自分と同じ3年生の仲間も集まっているだろうと思ったんです。
そしたら兄が「ついて来るなよ」って言ったんです。
いつものイジワルだなと思い、兄が家を出てから、遅れて公園に行こうとしたんです。
兄が玄関を出てしばらくしてから、ボールを持って家を出ました。
小さな庭があって、高い板塀に続く門があって、
そこを出たとたん「おらー!」っておどかされ、同時に背中をどやされたんです。
隠れていた兄の仕業です。そういうことはよくありました。

家の前の通りは、それほど交通量は多くなかったんですが2車線のバス通りで、
そのとき自分は、驚いたのと兄に背中を押されたのとでつんのめって、
そのまま歩道を飛び出して膝までくらいの低い柵を乗り越え、
車道に背中から落ちたんです。そこへ車が来て・・・
ドカーンというものすごい衝撃を覚えてます。頭をバンパーに打ちつけ、
さらに車体の下に巻き込まれた形で・・・
気がついたときには車の下の空間にいました。喉から胸にかけて裂けてて、
血がゴボゴボと音をたてて目の前に吹き出していました。
「お母さん、お母さん」って何度も叫んだんですよ。
そしたら・・・いつも服の下になっているお守りが、自分の血で真っ赤に染まって
目の前にあったんです。その人差し指が煙を上げていて・・・

そこまでしか覚えてません。目の前が真っ暗になって、
「おい、おい」と兄が呼ぶ声がして・・・気がつくと、
家の前の歩道に尻もちをついてたんです。ええ、お尻が少し痛かっただけで、
体にはどこにも傷はありませんでした。兄もね非常に驚いた様子で自分を見てました。
「お前、今、車に・・・」こんなことも言った気がします。
でもね、立ち上がってもどこもなんともない。ただ、そのお守りが服の外に出ていて、
しかも人差し指の部分が黒く焦げ落ちてなくなっていたんです。
兄は「今のこと、誰にも言うなよ」そう言って公園に行ってしまいました。
自分は、家に戻って母にそのお守りを見せたんです。
そしたら母は何も言わずに、自分の頭をなでてから、お守りを服の下に戻したんです。
それから家の奥の間にある祭壇に行って、その日はずっとご祈祷をしていました。

翌日・・・のはずなんですが。こっからは信じられないような話なので・・・
ええ、自分が事故にあったと思ったのにケガ一つなかったというのも、
これも信じられない話ではあるんですけど、まあねえ、
自分がおどかされたショックで白昼夢を見ただけってことで片付くかもしれません。
でも、この日のことは・・・
学校があると思って、早く起きて下に行ったんですよ。そしたら、母が台所にいて、
「休みなのにずいぶん早いわね」って言ったんです。えっ、と日めくりを見ると、
5月の11日だったんです。ありえないでしょう、同んなじ日が2回繰り返されるなんて。
自分が母にそのことを言おうとすると、母が黙って首を振りました。
そのうちに兄が起きてきて・・・兄は最初から休みの日だと思ってるようでした。
で、朝食を食べてから「公園に行ってくる」と言い出して・・・

前の日?のことがあったんで、自分はいっしょに行くとは言わなかったです。
兄が玄関を出ようとしたときも、まだキッチンの椅子に座ってました。
そしたら母が背後に近づいてきて、自分の頭を抱き寄せ、
両耳を塞ぐようにしたんです。その後、何が起きたかおわかりですよね。
家の前でドガーンという音がして、それから怒号のような人の声が聞こえました。
母が「お前はここにいなさい、動かないで」そう言い残して出て行って・・・
兄が家に前で車に牽かれたんです。救急車で運ばれたんですが、ほぼ即死状態でした。
自分は母にきつく留守番を言い渡され、父母とも遅くまで帰ってきませんでした。
翌日は警察が来て現場検証なんかもあって・・・
車の運転者は罪にはなりませんでした。兄が一方的に飛び出したということで、
目撃者が多数いたんです。父母とも、その人を責めることもなかったです。

こんな話なんです。信じてもらえますか。
その後は、母が体を悪くしまして、入退院を繰り返すようになり、
自分が小学校卒業前に病院で亡くなったんです。
それと同時に、母がやっていた教団も解散になりました。
その後は父と2人だけの生活でした。父は家事などもよくやってくれたんですが、
やっぱり男2人だけの生活というのはねえ。それで自分は高校を卒業して名古屋に出たんです。
そこで就職し、結婚しまして。父はまだ健在ですよ。孫の顔を見て喜んでくれました。
あと話すのはお守りのことだけですね。指が2本だけになったそれは、
ずっと首にかけてあったんですが、母が亡くなる前後のあたりに、
気がついたらなくなってしまっていたんです。それ以来見つかりません。
今もね、実家に戻ると、祭壇があったあたりの箪笥などを探してみたりもするんですが。






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コメント
 巻き戻る直前の死の描写、運命的に避けられない事故、打ち解けられなかったお兄さん・・・ここの怪談の中で稀に見られる、怖いより悲しい話(私の主観)ですね。
 何より、(多分)大きな力を使い、恐ろしい秘密を背負い、語り手さんを残して早世してしまったお母さん。これが一番悲しい。ちょっと感情移入しすぎかな・・・
| 2015.07.27 19:27 | 編集
コメントありがとうございます
これは悲しい話になってしまいましたね
怪談なので基本的にハッピーエンドにはならないのですが
これは作中人物の悲しみはそれそれ深いと思います
bigbossman | 2015.07.28 22:36 | 編集
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