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妖怪談義9(最凶)

2015.08.08 (Sat)
今日は怖い話ではありません。久々の妖怪談義です。
えー最強の妖怪はなにかというテーマにしようと思ったんですが、
これは言うまでもなく「ゲゲゲの鬼太郎」で決まりですよね。
なんだアニメキャラじゃないか、と思う向きもあるでしょうが、
江戸時代に黄表紙(絵入りの本)で妖怪物が流行ったときに創作されたものが、
現在では立派に?妖怪として通用していますし。

そもそも妖怪の強さというのは難しいんです。まあ「小豆とぎ」とかは弱そうです。
「ショキ ショキ ショキ 小豆洗おか、人とって喰おか」
川辺でこう言うだけのようですから。
でも、もしかしたら隠された能力があるのかもしれません。
現代のゲームキャラの能力と同じで、あれには勝つがこっちには負ける、
といったじゃんけんのような関係がありそうです。

では、最凶の妖怪というのはどうでしょうか。
人間を苦しめた度合いということですが、
これはほぼ異論なく「千年狐」ということになると思います。
「白面金毛九尾の狐」とも言われます。
文献初出は、中国の地理書『山海経』で、人をとって喰うという内容が出てきます。
かなり古い時代からの言い伝えがあるようです。歴史上では、これはお話なのですが、
『封神演義』に出てくる妲己は、この千年狐が化けたものとされます。
紀元前11世紀の古い話です。殷(商)王朝最後の帝、辛(紂王)の寵姫となり、
(本物の妲己は殺されてすり替わった)
義妹の雉の精、琵琶石の精とともに悪逆の限りを尽くします。

例えば『史記』に出てくる故事成語の「酒池肉林」も妲己が始めたことですし、
「炮烙の刑」猛火の上に多量の油を塗った銅製の丸太を渡し、
その熱された丸太のうえを罪人に裸足で渡らせ、渡りきれば免罪、釈放する。
(一説には、中で火を炊いた銅製の円筒に罪人を縛りつける。)
「蟇盆(たいぼん)の刑」殷の都、朝歌の人民一人つき蛇を数匹持ってこさせ、
これを地面に盆状に掘った坑に数千匹入れ、罪人をその中に投げ落とす。
これらの刑罰も、妲己が考えたということになっています。

紂王は妲己のために諸侯の信を失い、
周の軍師、太公望呂尚によって滅ぼされることになります。
ここで妲己も斬首されたはずですが、どうやってか生き延び、
次は天竺に姿を現すことになります。
(その前に西周、幽王の妃、褒ジになったとも言われます。
 褒ジは悪女としては小物ですが、周は滅びてしまいますね。)
 
これも紀元前ですか、西インドのマガダ国(耶竭陀)に現れた千年狐は、
太子、班足王子の后、華陽夫人となってやはり夫を操り、
「人、千人の首」をねだりますが、狐狩りによって傷を負い、
そのときにかかった名医にして仏弟子の、耆婆(きば)によって正体を見破られ、
逃げ去ったことになっています。
このときは国を滅ぼすまでには至らなかったんですね。
(チャンドラグプタ王、孫のアショーカ王の頃には、ほぼインド全域を支配します。)
 
さて、次に現れたのが日本で、玉藻の前という名前でした。
日本に来るのには、若藻(わかも)という妙齢の美女に化け、
彼女に惑わされた吉備真備の計らいによって、阿倍仲麻呂、鑑真和尚らが乗る、
第10回目の遣唐使船(753年)に乗船。
嵐に遭遇しながらも来日を果たしたとされます。
(仲麻呂はベトナムに漂着して日本に帰れず、鑑真は沖縄に漂着し薩摩へ)

玉藻の前の話はもちろん伝説なのですが、成立は古く、
すでに室町時代の文献には話が出てきています。
さて、若藻は玉藻の前と名乗り、鳥羽上皇の女官となり寵愛を一身に集めますが、
やがて上皇は病に伏せるようになり、安倍晴明の子孫である陰陽師、
安倍泰成に秘技、泰山府君祭を行わせたところ、正体がばれてしまいます。

その後がまた大変でした。千年狐が逃げた那須野で、
怪事が頻発しているという噂が宮中に伝わり、
三浦介義明、上総介広常を将軍とした、なんと8万もの追討軍を繰り出しますが、
妖術の前に敗退してしまいます。そこで、犬のしっぽを狐に見立てて馬上から射る訓練、
(犬追物、このあたりは起源説話のようです)を繰り返し、
再度攻めたときには、三浦介の弓、上総介の太刀によって、ついに絶命させられます。
ちなみに、三浦介、上総介はどちらも実在の人物で、
源平の争乱時に不幸な形で亡くなっていますので、
そのあたりの事情をよく知る武士たちによって、
能楽『殺生石』のヒーローとされているのかもしれません。

これで話は終わったわけではありません。千年狐の遺骸は巨大な毒石「殺生石」
に変じ、近くを通る旅人や鳥獣を殺傷しまました。
(硫化水素などの有毒ガスによるものとも考えられます)
多くの僧侶が鎮魂のために訪れたものの、毒のために倒れることになります。
最後は、南北朝時代の曹洞宗の名僧、源翁(げんのう)和尚の法力により、
石は四散して全国へ散りました。
「玄能(金づち)」の語源は、ここからきているようですね。

ということで、長いお話をやっと説明し終えました。
さてさて、中国ー天竺ー本邦と三国に渡った、
史実を絡めた物語のテーマははっきりしているようです。
歴史の陰に女あり、悪女は天下を滅ぼす・・・
あと、虚構は印象的な史実とからめたほうが面白いということでしょうか。

『今昔画図続百鬼 玉藻前』鳥山石燕






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コメント
「九尾の狐」関連では、わたしは藤子F先生の「T・P・ぼん」の一編が好きです。よくあの話をSF少年漫画にまとめたな、と。玉藻の前と安倍晴明の伝説に彰子と恵氏をからめて藤原氏の権力闘争を舞台設定として持ち出すとか藤子F先生やりたいほうだいです。

あれをたたき台にして原作に「かがやく月の宮」の宇月原晴明先生を据えて豪華絢爛宮廷陰謀ファンタジーロマン「玉藻前」とかNHKの大河でどうかな、と思うのですが……無理か(^^;)
ポール・ブリッツ | 2015.08.09 16:02 | 編集
コメントありがとうございます
江戸時代ではない時代劇って、衣装とか小道具がたいへんなんですよね
特にNHKは凝りますから
bigbossman | 2015.08.09 21:37 | 編集
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