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墓のうらに廻る

2015.08.17 (Mon)
14の日にね、うちの墓所じゃなく親戚の墓参りに付き合わされたわけ。
そこも市内なんだけど、うちの墓とは別の寺で、
うちの墓参りは13の日にもう済んでたんだ。
親戚は老夫婦で、俺が車で送っていけって言われて。
でねえ、初めて行くとこだったから、いちおう車のナビをセットしてね。
住所入れたんだよ。市の外れのほうで、30分以上かかった。
かなり広い墓所が付属してたよ。俺はほら、一緒に墓参りするのもなんだと思って、
寺の駐車場に置いた車で待ってたんだよ。
それも30分くらいかな、年寄りだからゆっくりお参りしてきたみたいだ。
俺はその間、エアコン入れたままで運転席でうとうとしてたわけよ。
でね、異変に気がついたのは翌日なんだ。

その日もまだ盆休みで、本屋にでも行こうと思って車出したら、
ナビが前日行ったお寺を指示し始めたんだ。
そのときは、「ああ、案内解除されてなかったか」って思ったけど、
でも、冷静に考えればそんなことはないよな。
だって、案内が解除されてなけりゃ、昨日の帰り道で「次の交差点を左です」とか、
行ったばかりの寺をずっと指示してるはずだろ。
だけど、そんなことはなかったのよ。「変だなあ」と思って、案内解除を何度押しても、
これが消えなかったんだ。「あちゃー、故障だな」って嫌な気になった。
俺の車は6年目で、ナビは買ったときからついてたやつ。
でね、ナビの故障って修理に時間がかかるんだよ。
これはディーラーのメカニックに直せるものじゃないし、電機メーカに送るしかない。

それで、全部交換ってこともありえるんだ。
そんな金も時間もなかったから、音声を切ってほっといた。
ほら、連日のこの暑さだろ。もしかしたら、
暑さがおさまれば自然に直るかもって考えたのよ。
で、昨日から仕事が始まった。俺の仕事はラジオ局で、深夜番組の制作なんだよ。
番組の録音は昼にやるんだけど、放映されるまで残ってなくちゃなんない。
だから、局を出たのは夜中の2時過ぎ。その時間帯になると、
地方都市だから車通りはほとんどないんだ。でね、交差点で信号待ちにかかったとき、
何気なくラジオつけちゃったんだよ。ナビが壊れてるってことを忘れてたんだ。
今思えばそのときだと思うんだよなあ。
何がって? うん、体を乗っ取られたみたいな状態になったんだ。

ラジオが鳴らなかった時点で、音声切ってたことは思い出した。
それで音量のスイッチを数回押したら、あのお寺への案内が始まったんだよ。
「目的地までの到達予想時間、27分です」って。
そしたら、俺は自然に「はい」って答えちゃったんだよ。「次の信号を右です」「はい」
って感じで、逆らえなかったんだ。自宅へ向かう道からどんどん外れて、
14の日に行ったお寺にどんどん向かってたんだよ。
いや、頭の中ではおかしいと思ったよ。でも止まらないんだ。
ナビが指示をするたびに「はい」「はい」って返事が口から出て。
普通そんなやつはいないだろ。機械音声に答えるなんて。
それだけじゃなく、手が勝手にハンドルきってお寺の方向へ進んでいくんだよ。
でね、とうとうそこの寺の駐車場に着いてしまった。

エンジンを切って、それでナビも消えたんだけど、
もうそのときにはとり憑かれてたからね。頭の中でナビの音声が聞こえるんだよ、
おんなじ声で。「車外に出て、山門を入ってください」って。
「はい」・・・ほら、お寺だから、立入禁止の鎖とかついてるわけじゃないんだ。
お寺や神社ってのは、基本的に時間に関係なくお参りできるんだよ。
で、前に来たときは墓所にいかなかったから、頭の中でずっと指示が響きっぱなし。
「小道を真っすぐ行って、突きあたりで左に曲がります」とか。
もう墓所の真ん中まできててね。熱に浮かされた感じで、怖いとも思わなかった。
墓所自体はそこそこ明るかったよ。緑色の防犯灯が寺の蔵の壁にそっていくつかついてて。
で、俺はどんどん奥の方に入っていって・・・
さして大きくない、「〇〇家の墓」ってとこの前まできたとき、

「目的地到着です。これで案内を終了します」って頭の中の声が言って。
俺はそこで膝からへたり込んでしまったんだ。道は土になってて、
その日は細かい雨が降って濡れててね。「あれ、俺、何やってるんだろう」
少し正気に戻った気がしたんだが、体の力が抜けて動けないんだよ。
夢の中でそういうことってあるだろ。逃げなくちゃいけないのに、
体が思うように反応してくれないって。ちょうどあんな感じで。
そんときね、俺は座り込んだ状態でその墓と正対してたんだけど、
墓の裏に黒いものがちらと見えた気がした。人間の背の高さくらいで、
後ろの闇に溶け込んでるんだけど、それよりも黒いもの。女の髪というか頭だと思った。
それが少しずつ、少しずつ、俺のほうへ出てこようとしてたんだ。
ヤバイものだってわかったけど、どうやっても足に力が入らない。

目をつむることもできなかったんだ。女の頭はもう半分以上出てたんだけど、
濡れた髪が顔にかかって表情とかは見えなかった。
それがスローモーションで出てきながら、少しずつ顔を上げて・・・
そんとき、急に光が墓を照らして、「何やってるんだあんた!」男の声がして、
肩をつかまれた。それで、声が出たんだ。「助けてください。動けないんです」って。
屈みこんで俺の顔に懐中電灯を向けてきたのは若い坊さんだった。
「動けない? 肝試しにきたんじゃないみたいだな」
でね、その坊さんはかなり力が強くて、脇を抱えて立たせられ、
本堂の木の階段まで連れてかれて、そこに座らされたんだよ。
事情を聞かれたんで、とぎれとぎれにあったことを話したんだよ。ナビの故障、
体を乗っ取られたみたいになったこと。あの墓の前で案内が終了したこと。

裏側から女の頭が出てて、それから目が離せなくなったこと。
坊さんは口をはさまずに、俺の言うことを聞いていたが、
「うん、わかりました。車は駐車場に負いてあるんだね。なら寺で管理するから、
 置いてタクシーで帰りなさい。今呼んであげるから。
 それからね、ちょっと調べておくから明日、午前のうちにもう一度寺に来て」
こう言われたんだ。そのままタクシーで帰って、部屋に戻るとすぐに寝たよ。
で、翌日って今日のことだけどね。寺に行って、家屋のほうの呼び鈴を押したら、
昨夜の坊さんが出てきて、俺に預けてた車のキーを返し、
「どうすればいいかわからなかったんですけど、お経をたっぷり車の中で読んだので」
こんなことを言った。それから座敷に通されて話を聞いたんだよ。
「あなたが昨日、前に座っていたお墓は、〇〇家のものなんですが、

 そこ、お参りする人が絶えてまして。ええ、一族で誰も残ってないんです。
 都会なら、墓を取り壊して無縁様に入れてしまうようなとこもありますけど、
 当寺ではそんなことはしてません。・・・昨日、墓の裏から女の人の頭が出てきて、
 みたいな話をされてましたよね。調べましたら、最後にあの墓に入った方がいるのは、
 平成11年です。一人暮らしのおばあさんが亡くなられたんですが、その方は白髪でしたし、
 その前が若い娘さんです。昭和40年代だからずいぶん前のことですよ。
 私の前の住職の代のときです。その娘さんは、専門学校生ということでしたが、
 当寺ちょうどスクーターが流行ってましてね。それで、事故があって亡くなったんです。
 単独事故という話でしたが、詳しい事情はわかりません。
 最後に亡くなったおばあさんとは、母一人子一人の母子家庭だったんですね。
 それで墓を継ぐ人がいなくなって」

話の合間を縫って「どうして自分が呼ばれるみたいなことになったんでしょうか?」
って聞いたら、「それはこちらではわかりません。
 あなたのほうに心あたりがあるんじゃないですか?」こう答えが返ってきたけど、
その娘さんの事故って俺が生まれるずっと前の話なんだよ。心あたりもなにもねえ・・・
「とにかく、成仏なされていないとは思いたくないのですが、
 朝から入念にお経をあげさせていただきました。さっき話したようにあなたの車にもね」
ということだったので、礼を言って、いくばくかのお布施を包んで渡したんだよ。
帰りは自分の車で帰ったんだけど、ナビの異常はなかった。
でもねえ、いつまたあんな状態が起きるかわからないとなると、不安でたまらないよ。
6年目だし、ローン組んで車を買い替えることを考えてるんだ。それと、この話、
これから両親にしてみるつもりなんだ。何か心あたりがあるかもしれないし。

※ 題名は、俳人 尾崎放哉の自由律俳句から拝借いたしました。






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