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面打ち師

2015.08.26 (Wed)
* ナンセンス話です。

あーどうも、バーのマスターをやってるYと言います。
こないだからの一連の出来事について、ここで話ししてこいって言われて来ました。
ええと、うちのバーなんですけど、地下にあるアクアリウム・バーなんですよ。
ほら、最近結構見るでしょ。店内に大型の水槽があって、海水魚なんかが泳いでる。
あれなんですよ。もちろんオーナーじゃなく、雇われですけどね。
地下の店の中に、何十トンも水量のあるコンクリ製の水槽があって、
それ見ながら酒飲めるってコンセプトで。
水槽や生き物の管理はバーのスタッフじゃなくて、専門の業者がやるんです。
メンテナンスを委託してて、そっちのほうには俺はノータッチ。
いやあ、そりゃ費用はかかってるでしょうが、日本全国にある水族館は採算取れてるでしょ。
例えば店にバンド入れたりする人件費に比べりゃ安いはずです。

でね、店はオープンして4ヶ月なんですが、客入りはまずまずでしたね。
赤字ってことはありません。けど、先月あたりからねえ、ちょっと問題が起きたんです。
ええ、カラフルな小魚がいるのは大きな水槽じゃないんですが、
店で一番の大水槽。これはアクリル面だけでも30平方mくらいあるんです。
そこで飼ってるのは、小型のサメやウミガメです。
テーブル席の背面ずっとに広がってまして、客が酒飲んでる横を、
1mくらいのサメや亀がスイーッと泳いでいく。
まあ店の一番の売り物なんですが、ときおりね、
妙なものを見たって言い出すお客が出てきたんです。ええ、青い照明を入れた水槽の中を、
白い着物を着た人が横切っていたっとか、サメの腹のところに子どもの顔が見えたとか。
気味悪い話でしょ。でも、そのときはまだスタッフは誰も見てなかったんです。

ところがねえ、2週間前、俺自身が見ちゃったんです。
明け方の3時ころでしたね。その日の客がはけて、
簡単なそうじゃ洗い物をして帰ろうかってとき。各テーブルを見て回ってましたら、
なんか水槽から視線を感じる。まあ、照明の具合で自分の顔が映ってるってこともあるんです。
それだと思ってたんですが、どうにも気になってアクリルの面を見ると、
でかい口を開けた女が・・・女だと思いますよ。
長い髪が海水の中でうねってましたから。客の言ってたとおりね、
白い経帷子みたいなのを着た女が、どろんと濁った目をして大口を開けたまま、
横切っていったんです。恥ずかしいですが悲鳴をあげちゃって。
それでオーナーに相談したんです。そしたら俺の言ったことを信じてもらえましてね。
しばらく店を休みにして、知り合いの霊能者を派遣するからって言われました。

それで来たのが、「面打ち師」って呼ばれるやつなんですよ。
歳は40代の初めくらいですかね。あんまり特徴のない男でしたが、
作業着を着てたんです。ねえ、霊能者って神主みたいな着物を着てるのかと思ったら、
なんかアクアリウムショップの人とあんまり変わんらないような。
ちょっと拍子抜けしました。でね、その人の経歴が変わってたんです。
面打ち師ってのは通称ですが、別に剣道とかやるわけじゃなくて、
霊能商売前の前歴が、能面を作る仕事だったんです。
ええ、般若とかああいうお面を、木から彫るわけですよ
それを「面を打つ」って言うらしいです。中学を卒業してからずっと、
先生に弟子入りして面打ちの修行をしてきたんだけど、訳あって霊能者に鞍替えした。
自分は、そっちのほうの才能があるって気がついたってことでした。

でね、その人が来てまず言ったのは、この付近の住宅地図を見せてくれってことで、
スタッフルームでそれ見てしばらくうなってましたよ。
竹製のものさしみたいなのを地図上に当てて、あっちこっちに動かしたりして。
でね、2時間ばかりして、「原因がわかった」って。
実はねその界隈は「〇〇会館」ってのがけっこう多いんです。
ほら、大型チェーンの冠婚葬祭の会社ですよ。ああいうのって、
同業会社の会館が同じ地域に立ってることが多くて、バーの近所にも3ヶ所ありました。
それがね、霊障の元になってるって言うんです。
そういうとこって、ホテルでやることが多い結婚式より、
葬式のほうがメインじゃないですか。でね、たいがいは地下に遺体安置所があるそうなんです。
うちのバーも地下ですから、霊が通って来やすいってことでしたね。

それとね、アクアリウムの水槽にある大量の水。
これが霊を引きつけるもう一つの要因だって言ってました。でもねえ、うちは全部海水水槽で、
よくマンガなんかでは、幽霊が出ると盛り塩とかするじゃないですか。
だから「幽霊は塩には弱いんじゃないんですか?」って聞いてみたら、
「それだと、海には幽霊は出ないことになるだろう」って返されましてね。
まあね、俺にはよくわからないんで、下手に口をはさまないで全部任せちゃおうと思いました。
そしたら、一方の壁を崩さなくちゃならないって言うんです。
これはかなりの出費だし、店もしばらく休まなくちゃならない。
それでオーナーに相談したら、「この際だから、やってしまおう」って。
この面打ち師、かなりの信用があるみたいなんですよ。
それで工事を入れて壁を崩しまして。立ち会ったのは、スタッフの中では俺だけです。

そしたら面打ち師はどうしたと思います。自分で彫ったという能面を6個持ってきまして。
ええと、俺はさっぱりわからない世界なんですが、
「こべしみ」っていう、鼻の短い天狗みたいな顔をした面。口をへの字にした怖い顔のやつですが、
それを5個と、あと「やせおんな」という、頬がげっそりこけた女の面を一つ。
それらをね、壁の中に埋めたんですよ。全部が外側に顔を向けるようにしてですが、
それぞれ微妙な角度がついてましてね。上下が逆になってたのもあります。
葬儀社の霊安室の方向を意識してるんだと思いましたが。
「こべしみ」の面に「やせおんな」が囲まれるような形でした。
どうせ聞いても理解できないだろうとは思いましたが、いちおう訳を尋ねたら、
「こべしみ」ってのは、地獄の鬼なんだそうですね。
それに対し、「やせおんな」は地獄であらゆる責め苦を受けて弱った女の顔。

これらが、地下を通ってきた霊には見えるらしいんです。
霊がそれを見ると、「ふらふらさまよい歩いていると地獄に落とされてしまうから、
 早いとこ成仏しなさい」みたいな意味を感じるということでした。
それで、霊安室に戻ってって、坊主の経を聞いて行くとこに行っちゃう。
こういう理屈みたいでした。どうやら、霊障のケースによって、
使う能面の種類や数を塩梅してるみたいでした。能面って何十種類もあるらしいです。
それから、俺が女の霊を見た大水槽、生き物を移し、水は全部抜いていったん乾かし、
「これはこれで大丈夫だろうけど、念のために」って、「とびで」という面を、
客に見えない側の壁にくっつけて、それから水を入れなおしたんです。
「とびで」ってのも、でかい目の玉が飛び出した不気味な面でしたが、
「船弁慶」とかいう能に使う、水に関係がある神様なんだそうで。

「もし、さまよって入ってきた霊があっても、これ見れば逃げていくから」って。
でね、改修にかかった費用は数百万、それと面打ち師への謝礼ですが、
そっちのほうは俺には金額はわかりません。
店のほうは3日前に再オープンしまして。今のところ、客からの苦情は来てません。
まあね、これだけのことをやって、
おさまらないんだとしたら詐欺みたいなもんですよね。
それで毎日、水槽の中をちらちら見てたんですよ。
そしたら、中に新しく入れたサメや亀、大型のブダイって魚なんかが、
「とびで」の面の前を泳いで通るとき、その面に対して、
ちょこっと頭を下げるような仕草をするんですよ。
「ああ、魚にも怖いもんだってっわかるんだな」って思って。ま、こんな話です。

ootobideのコピー
(左より 大飛出、小癋見、痩女)




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