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赤の浜

2015.09.08 (Tue)
今週の月曜のことですよ。あの、うちは主人がJRを退職して5年目です。
子どもたちはとうに独立しておりまして、同居はしていません。
ときおり孫の顔を見せには来てくれますが、
夫婦2人の生活ではやはり寂しいですので、2年前に犬を飼うことにしたんです。
主人が知り合いからもらってきたもので、
ダックスフンドに似た体型をしているんですが、血統書も何もない雑種です。
オスで「鉄郎」って名前を主人がつけました。よく言われるんですけど、
これはほら、アニメで「銀河鉄道999」というのがあったでしょう。
その主人公と同じ名前なんですよ。主人がJRでしたから、
鉄道の鉄を名前につけたいということだったんですが、後で気がついたら同じに。
最初からアニメにあやかったわけではないんです。

世話は、食事は私が準備しますけど、散歩は毎日主人が連れていくんです。
それも早朝の夜明け頃です。主人は、仕事が現役の頃から早起きの人でしたが、
退職しましたらますます早くなり、5時には起きて、鉄郎をつれて1時間ほど歩くんです。
私は寝ていましたよ。朝食は7時過ぎで、そんなに早く起きてもやることがないですから。
でも、月曜の日は主人と同じ時間に起きたんです。
どうしてかといいますと、かかりつけの整形外科のお医者さんから、
体重を少し減らしたほうがいいと言われまして、それで毎日ではなくとも、
週に2、3度は主人と一緒に家を出て歩こうと思いまして。
主人もいいと言ってくれましたので。
家を出たのが5時15分でした。まだ夜明け前ですよ。
ええ、今頃は5時40分ぐらいみたいですね、ここらで日が昇るのは。

鉄郎は2歳ですが、元気なもので、短い足でとっとことっとこ歩くんです。
リードを持つ主人が早足にならなければいけない勢いで、
ついていく私は小走りですよ。ああ、これはいい運動になるなとは思いましたが、
一方、このペースだとはたして続くものかと、不安な気持ちもあったんですよ。
散歩のコースは、海沿いの堤防の往復です。
ええ、海岸に住んでいまして。やや離れたところには漁港もあるんですが、
私らの住んでいるとこは何のへんてつもない砂浜でして。
海水浴に来る人もおりませんよ。海はほとんど波もなく凪いでいました。
なんとか鉄郎と主人についていきましたところ、だんだん日が昇ってまいりまして、
海が赤く染まり始めて、ああ、きれいだなって思いました。
もしかしたら主人は、これを見るために早起きしてたのかもしれないな、と。

20分ほど歩いて、「そろそろ引き返すポイントだな」と主人が言ったとき、
100mほど向こうの砂浜が赤く染まっていたんです。
「あれ、何かしら。あそこだけ朝日があたっているとか?」
「そんなはずはあるまい。どこも同じ続きの浜なんだし」
「じゃあ、この間から漁協の人が話していた赤潮というのがあれかしら?」
「うーん、それもないな。だいたい赤潮はこのあたりのことじゃないし、
 なるにしても海の中のものだ。あれは砂の上だろう。
 とはいえ奇妙なもんだ、初めて見た」
「ねえ、あそこまで行って何なのか確かめてみましょうよ」 「そうだな」
こんなことを言い合って堤防の上を進んでいったんです。私たちの他に人はいませんでした。
近くまでくると、そこの浜一帯、そうですね30mほどですか、砂が赤く光っていたんです。

「変なものだなあ。これは初めて見た。ちょっと近くまで行ってみよう」
主人がそう言って、鉄郎のリードを持ったまま浜へ続く石段を下り始めました。
でもこれ、ほら鉄郎は足が短いので、石段を下りるのがたいへんなんですよ。
嫌がるそぶりを見せましたので、主人が抱き上げて、私がその後をついていきました。
不思議な感じがしましたよ。浜のその部分だけ、線を引いて区画をつくり、
その中の砂にペンキを吹きつけたみたいに赤かったんです。
炭が燃えているような赤さで、地面の下から光っているようにも見えました。
「変だなあ。何だろうこれは」主人が普通の砂との境のところまで行って、
しゃがみ込んで地面に顔を近づけました。
「別に熱いとかはないな。色をつけたとも思えんなあ」
立ち上がってその境を越えようとしましたが、

そのとき抱かれていた鉄郎が体をよじって暴れたんです。
それで主人がよろけまして、どっと赤い砂の上に倒れこみました。
「あなた、大丈夫?」 転んだ拍子に鉄郎のリードを離してしまって、
鉄郎が砂の上で自由になりました。でも、走ったりしないで、
砂の感触を確かめるように前足を上げたり下ろしたり、
鼻をつけて砂の臭いを嗅いだりしました。
主人が立ち上がって、何か言いました、でもそれが「ムニャムニャムニャニャニャ」って、
言葉にならないように聞こえんたんです。ええ、外国の言葉みたいでした。
私は外国語どころか英語もできないんですけど、英語のようには聞こえませんでしたね。
しゃべった主人も驚いたような顔をして「ムニャムニャムニャ」
また何か言ったんですけど、それがやっぱりわからない言葉で。

それでこの後、もっと驚くことがあったんですよ。
さっきから地面を調べるような動作をしていた鉄郎が、顔を上げて私のほうを見、
こう言ったんです。「これ、ダメですよ。よくないものです。戻りましょう」って。
びっくり仰天でしょう。犬が口を利くなんてねえ。流暢な、人間の若い男の声でした。
私なんか腰を抜かして後ろに倒れこみそうになりましたよ。
主人のほうを見ますと、やっぱり驚いた顔をしていまして。
鉄郎がまた、さも賢そうな口調で「海に何かいます。このまま海を見ないで帰りましょう」
それで主人が、リードを拾い上げ、鉄郎を引っぱって赤い砂の外に出たんです。
「聞いたか、今、鉄郎がしゃべったのを?」その砂から出たら主人の言葉が普通に戻りました。
「海を見ないようにって言ってましたよね」 「ああ、ここはおかしいから、
 こいつの言うことを聞いたほうがいいかもしれない」

それで主人も私も海から顔をそむけ、堤防のほうだけ見て、
階段に向かって歩きました。そしたら、さっきの浜のあたりで、ガボッガボッという、
どう説明したらいいかわかりませんけど、海の水がかき回されるような大きな音が聞こえて、
背中で赤い光が強く差している感じがしたんです。
朝日ではありません。そのときはほとんど昇りおえていましたから。
振り向くことはせずに、主人がまた鉄郎を抱えて石段を上っていったんです。
堤防の上に出たとき、主人がちらっと海のほうを見て、
「あ、あの赤いのなくなってる」こう言いましたので、もうだいぶ離れて大丈夫かと、
私も見てみましたら、さっき赤かった砂の色がすっかり普通に戻っていたんです。
海面には、その浜の部分の沖10mほどに大きな渦巻きができていました。
ですがそれも、すぐに消えてなくなったんです。

主人も私も、言いたいことは山ほどあったんですが、
どう口に出していいかわかりませんでした。それで押し黙って家まで戻ってきたんですよ。
その日は、浜に異変がなかったか、普段は聞かない地元の有線放送をつけてたんですが、
特におかしなことはなかったようです。ただ・・・私と主人は、
その日のお昼ごろに、そろって鼻血を出してしまったんですよ。
2人ともなかなか止まりませんでした。私たちがそうでしたから、
心配になって鉄郎を見にいきましたら、のんびり昼寝をしていました。
それ以後、鉄郎が人間の言葉を話したということはありません。
元々が、ほとんど吠えない犬ではあるんですが。 あれはいったい何だったんでしょう。
主人も月曜以来、散歩のコースを変えまして、街のほうに出ているんです。
私は早起きも散歩もやめてしまって、体重を減らすのはどうしたらいいものでしょうねえ。






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コメント
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| 2015.09.09 19:26 | 編集
コメントありがとうございます
波が砕けたものが泡のように集まってる場所は見たことがあるんですが
それとは違うんですか?
民宿の人の話は興味深いですね
bigbossman | 2015.09.09 20:25 | 編集
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