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『くじ』を読む

2015.09.09 (Wed)
今回は怖い話ではないのみならず、ネタバレですので、
この短編を未読の方にはスルーをお勧めします。
最近、英語の復習のために、海外の有名な短編作品で著作権が切れているものを、
ネットで見つけて脳内翻訳するということを、暇を見てやっています。
もともと翻訳で読んでストーリーを知っているので、辞書に頼らずだいたい読めます。
とりあえずは、スタンリイ・エリン『特別料理』 ロアルド・ダール『南から来た男』
そしてシャーリー・ジャクスン『くじ』の3編を読みましたが、
いろいろと新しい発見がありました。

ちなみにこの3編とも、オカルトではなく「奇妙な味」と言われる分野のもので、
どちらかと言えばミステリー寄りです。超自然的な物や出来事は作中には出てきません。
『特別料理』と『くじ』はホラーとは言えるかもしれません。
『南から来た男』はオチのひねりが強烈な、賭けを主題とした話です。
英語としては『特別料理』が図抜けて難しく、あとの2つはそれほどではありません。
『南からー』では賭博じいさんの言葉が南米なまり?で書かれていて、最初とまどいますが。
自分はアメリカに2年ほど住んでいたことがあるのですが、
『特別料理』では、日常会話ではまず使わない単語がたくさん出てきて、
これは作者がわざとそうしているようです。
言葉を選び抜いて組み立てられているんですね。

シャーリー・ジャクスンは心理的な残酷さが持ち味の女流作家です。
『山荘綺談』などの純ホラーも書いていて、映画化もされています。
『くじ』はザ・ニューヨーカーという雑誌に発表されたものです。
ここに書かれる作品は、どちらかといえば洒落た都会的なものが多いのですが、
『くじ』は異色で、アメリカ開拓時代の名残を残す小集落が舞台となった、
土着的とも言える内容です。発表された当時「恐ろしすぎる」「胸が悪くなる」等、
たくさんの投書があったということです。

ここからネタバレなのですが、筋は、
「ある300人ほどの集落で全員参加のくじ引きが行われるが、
その目的は最後まで明らかにされない。家族単位で当主がくじを引いていき、
ハッチンスン家が当たりになる。さらに幼い子供を含めた一家全員でくじを引き、
奥さんが丸印を引き当てる。集まった集落の全員は、ハッチスンの奥さんめがけ、
集めていた丸石を投げつける」

だいたいこんな内容です。この行事は集落が入植・開拓された当初から、
毎年行われてきたもののようです。

トウモロコシの収穫前の6月に、くじで選ばれた一人を全員で石を投げつけて殺す。
・・・どういうことでしょうか? 生け贄?
トマス・トライオンの長編『悪魔の収穫祭』ではそうでしたね。
かつては集落の人口を増やさないため行われてきたのかもしれません。
家族よりも集落全体の団結を深めるためなのかもしれません。
そのあたりは明らかにされないのですが、目的が形骸化してしまった現在でも、
伝統を守るためにくじ引きが行われているのです。

さて、ここで、くじが当たるハッチンスン夫人は、
この人物が選ばれるのが当然であるように話が構成されている、
ということはいろんな人が書かれています。もちろん自分もそう思います。
まず、くじを引く集会に遅れてきますし、
あれこれ文句をつける自己中心的な人物のように描かれています。

There's Don and Eva, Mrs. Hutchinson yelled. Make them take their chance!
Daughters draw with their husbands' families, Tessie,
Mr. Summers said gently. You know that as well as anyone else.
It wasn't fair, Tessie said.
「ドンとエヴァがいるでしょ」ハッチンスン夫人が叫んだ。「あの娘らにも、運命を選ばせなきゃ」
「娘はその夫の一族として引くんだよ、テシー」サマーズ氏は優しく言った。
「あなたも他のみんなと同じように、そのことはよくわかっているだろう」
「こんなの、フェアじゃないよ」


この場面は、一家がくじに当たったと知ったハッチスン夫人が、
自分の嫁いだ2人の娘にもくじを引かせろとわめいているところです。
確実に誰かが死ぬくじびきに、結婚して出してやった実の娘も加えろと言っているわけですね。
これではなかなか読者の同情は得られないでしょう。
ハッチスン家は、現在はハッチスン夫妻の他に、大きな息子ハッチスンジュニア、
12歳のナンシー、幼児のデイヴィの5人です。跡継ぎの息子や、
この後に家事を担当するであろう娘もいて、ハッチスン夫人がここでくじに当たっても、
まあ、それほど困らないであろう家族構成に描かれています。
このあたりも作者の作為なのでしょう。

The children had stones already.
And someone gave little Davy Hutchinson few pebbles.
子どもたちはすでに石を持っていた。そして誰かが小さなデイヴィにも小石を持たせた。


ジャクスン一流の残酷さが出ている一文で、家族も石を投げなくてはならないのですね。
事態が把握できないでいる幼児にも、母親に投げつけるための小石を誰かが握らせた・・・
集落の全員が石打ちに加わることに意味があるのでしょう。

さてさて、今回再読して改めて気がついたのは、登場する2人の人物のことです。
まず、くじ引きの進行役をやっているサマーズ氏について。
この役は決まっているものというより、サマーズ氏が自ら買って出て、
ボランティアのような形でやっているように描かれています。
このサマーズ氏に対して、

(Mr. Summers)who had time and energy to devote to civic activities.
He was a round-faced, jovial man and he ran the coal business,
and people were sorry for him.
because he had no children and his wife was a scold.
サマーズ氏は、市民活動に費やす暇と活力を持った、丸顔の陽気な男で、
石炭の店を経営している。そしてみなは、彼に子どもがなく奥さんが口やかましいため、
彼を気の毒に思っている。


こういう描写が初めのほうで出てくるのですが、
自分は初読のときにはまったく意識せず読み過ごしていました。
また、伝統を守る(くじを存続させる)側に立つ、頑固なワーナーじいさん。
彼は77回くじ引きに出たことを自慢気に公言しているのですが、
北の村で、くじ引きをやめようとしているという話を聞いたとき、こう言います。

Old Man Warner snorted. Pack of crazy fools, he said.
Listening to the young folks, nothing's good enough for them.
Next thing you know, they'll be wanting to go back to living in caves,
nobody work anymore, live hat way for a while. Used to be a saying about
'Lottery in June, corn be heavy soon.' First thing you know,
we'd all be eating stewed chickweed and acorns. There's always been a lottery,
ワーナーじいさんは鼻を鳴らして「馬鹿どもの集まりが」と言い、
「若いやつらの言うことを聞いても何一ついいことはない。あんたもわかるだろう、次には、
洞窟暮らしに戻りたい、働きたくない、こうなるに決まってる。
昔からこう言われてる。『六月にくじ引き、とうもろこしはじきに実る』
もしやめてしまったなら、はこべとどんぐりのシチューを食わなきゃならなくなるぞ、
くじはいつまでもあるもんだ」


まあ、自分の深読みのしすぎという可能性もあるもしれませんが、
サマーズ氏に子どもがないのはなぜなんでしょう?
たまたま子宝に恵まれなかったのでしょうか。そうかもしれませんが・・・
77回くじを引いた(77歳の)ワーナーじいさんが一人暮らしなのはなぜなのでしょう?
ずっと独身だったというのは考えにくいようです。
集落のみなはどこの家にどんな子どもがいるかをよく知っていて、
年頃になったら嫁を世話してやる、そんな雰囲気で集団は描かれています。
例えば、この少年の父は数年前にくじに当たったのでしょう。

A tall boy in the crowd raised his hand.
Here, he said. I'm drawing for my mother and me.
He blinked his eyes nervously and ducked his head as several voices
in the crowd said things like
“Good fellow, Jack.” and “Glad to see your mother’s got a man to do it.”
一人の背の高い少年が「ここです」と手を上げ、「俺が母と自分の分を引きます」
と言った。彼は神経質そうに瞬き、群衆の「いいぞジャック」
「お前の母親が一人前にできる男に育てたのを見て嬉しいよ」といった声に、
首をすくめた。


じいさんの家族はじいさんより先にみな逝ってしまったのでしょう。
彼が頑迷にくじに固執する理由は、たんに年寄りだからではなく・・・
300人の集落ですから、一家が5人として約60家族、
確率的にはくじ60回(60年)に1回は、自分の家に当たることになるわけです。
これは作品に描かれた集落の人の寿命とおそらく同じくらいでしょう。
そして家族の中でまたくじを引いてその年の犠牲者が決まる。
もしかしたらサマーズ氏の子どもたちも、ワーナーじいさんの家族も・・・
このあたりが、集落の人間みながそれなりに食えるようになった今でも、
くじ引きをやめることができない理由の一つなのかもしれません。
おそらく意図的に書かれているのでしょう。
ジャクスンは上手いですね。

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はかいあおあおあか




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コメント
「くじ」もいい作品ですよね。アンソロジーでこれしか読んでませんが、なんともいえぬ後味が……。(^^;)

後味の悪いことでは、ヒュー・ウォルポールもなかなかですよね。中学生のころ、創元のアンソロジーで「銀の仮面」を読んで震え上がりました。のちにまとまった同題の短編集は、図書館にあるのは知っているのですが、怖くて手を出せません(^^;)

ジャクスンの短編集もたぶん図書館にあると思うのですが、同様の理由で手を出していません。我ながらヘタレ(^^;)
ポール・ブリッツ | 2015.09.11 12:12 | 編集
コメントありがとうございます
「銀の仮面」もなかなか後味の悪い話でした
単に財産を他人に乗っ取られるだけというなら
こういう話は他にもあるでしょうが、銀の仮面が不気味さを増してました
bigbossman | 2015.09.11 22:20 | 編集
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