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霊能ビル

2013.08.02 (Fri)
ここのところずっと肩が重かったのです。
でも定期健康診断では何の異常もありませんでした。
昼休みに愚痴をこぼしていたら、友だちが霊能ビルのことを教えてくれました。
そこは都会にありましたので、電車に乗って出かけました。

地図をたよりに歩いていくと、大きなビルにはさまれた5階建ての
細長い建物がありました。1階はエレベータースペースと倉庫のようでしたので、
そのまま2階でエレベーターを降りると白いドアがあり、
「星占い 木村環子」と紫地に金字の瀟洒なプレートが下がっていました。
ノックをしてドアを開けると、水晶球の載った台の向こうに、
ベールをかぶった女の人が座っています。
わたしが要件を告げようと口を開きかけますと、みるみるうちに水晶球が曇り、
ヒビが入ってパーンと砕けちりました。

「ダメよっ!」女占星術師は顔をあげて叫びました。
「こっちに来ないで、あなたとんでもないわっ!!」
すると大きなショーケースに飾られていた、
さまざまな鉱石(パワーストーンというのでしょうか)が、
一つ一つ弾けとんでいき、やがてショーケース自体も、
大きな音をたてて崩れ落ちてしまいました。
「ダメっ、無理よ。なんてものを持ってきたの、上へ行って。ここじゃ無理!」
見ると女占星術師の白く塗った厚化粧にもギザギザのひび割れができています。
わたしは無言で頭を下げ、ドアを閉めました。

3階のドアには「潅頂院金剛力道場」と大ぶりの筆で書かれた
木の看板がしつらえてありました。ドアをノックすると、
「さあ入って、待ってたんだよ」という心強い磊落な声がしましたので、
「失礼します」と言ってドアを開けました。
中では山伏の格好をした人が、護摩壇のようなものを背にして腰掛けていましたが、
わたしの姿を一目見るなり、台座からずり落ちでフロアに尻もちをつきました。
そして「あんた、何、何だよそれ。何憑けてきたんだ冗談じゃねえよ!」と叫びました。
見ているうちに涙と鼻水が大量に出てきて、修験者のヒゲを濡らしました。

さらには失禁なさったらしく、白い袴に黄色いシミが広がっていきます。
「ここじゃだめだ。とても手に負えん、上の階へいけ。もっと力のある能力者がいる」
これだけ言うと白目をむいて失神なされたのです。
どうやら大のほうも漏れているらしく、異様な臭気が漂ってきました。
私はハンカチで鼻を押さえ、頭を下げて外に出ました。

4階に降りるなり、高価そうなお香のかおりがしてきました。
看板には「陰陽道 安倍晴耕」とありました。
ノックをすると「おが入りなされ~い」という鷹揚な声がします。
ドアを開けると薄緑の水干姿の若い男の人がいましたが、わたしの姿を見るなり、
「おげえっ!」と言って口から血を吐きました。
それだけではなく耳や目からも血が流れてきます。「あんた、何憑けてきたのっ。
 わたしはこう見えても妻子があるのよ。何これ、死んじゃうじゃない」
陰陽師はオカマ言葉でそう言って、さらに大量の血を吐き出しました。
「だめっ 死んでしまう。上へいって早く。まだ家のローンも残っているのよ」
叫びながら血だまりの中に倒れ伏されたのです。

5階でエレベーターの扉が開くと、そこに部屋はなく白い壁で囲まれた
スペースになっていました。向こうの端に何か四角いものが置かれています。
近寄ってみると、どうやらそれはおみくじの自動販売機のようでした。
わたしが百円を入れますと、ガラスケースの中の小さな神社の扉が開いて、
着物を着たキツネのフィギュアが出て来ました。
キツネはおみくじを咥えたまま、御幣でサッサッとお祓いの動作をしました。
そのとき、あれほど重かった肩が急に軽くなったのです。
キツネはポトリとおみくじを落とします。
それが機械の中を転がって取出口に出てきました。
開いてみるとそこには「大吉、万事都合よろし」と書かれてありました。
わたしはたいへん清々しい気分になって霊能ビルを後にしました。
ここに来てよかった、心からそう思いました。

『海辺の僧侶』カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ





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