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雪洞体験

2015.09.28 (Mon)
今年の3月のことです。雪洞ピバーク体験というのに参加したんです。
主催は、現在住んでいる県の社会人山岳会でした。
わたしは大学のときにワンダーフォーゲル部に所属していて、
その大学には登山部もありましたので、ワンゲルの活動はやや軟弱でしたが、
それでも八ヶ岳縦走なんかもこなしたんですよ。
その後就職しまして、新しい環境に慣れるのが精一杯で山はずっとやめてたんですが、
この県の支社に転勤してからは仕事にも余裕が出てきまして、
何か余暇活動をしようと思って参加したんです。
まあ社会人のクラブですからね、活動を強制されることはありません。
様々なイベントが企画されているうちで、自分のレベルや、
休みの都合に合うものを選んで参加すればよかったので、これはありがたかったです。

ビバークというのは、山登りでなくても野外活動をされた人ならご存知でしょう。
緊急的に野営するという意味です。ほとんどの場合は、宿泊の予定がなかったのに、
悪天候などのせいで泊まらざるをえなくなってしまうことを言いますが、
あらかじめ予定していたテント泊などが何らかの事情でできなくなり、
岩陰や雪洞ですごさなければならなくなった場合にも使うんです。
ええ、ワンゲル部のときにはテント泊も何度も経験していますが、
自分で雪洞を掘ってそこに泊まるというのは初めてでしたので、
参加を申し込んでから、ずっと楽しみにしていたんです。
期日は、3月中旬の土日、土曜日の昼に集合してマイクロバスに乗り市の郊外まで行きました。
はい、あくまでも雪洞体験が目的なので、山登りはなかったんです。
でも県の自然の家に車を停めてから、2時間ほど森を歩きましたけどね。

リーダーは佐々木さんという、その県の山岳会の中堅リーダーの方で、
その方がいろいろと教えてくださったんです。
参加者は自分を入れて8名で、全部が男性でした。
年齢層は20代から50代までさまざまです。それでね、森に入ってからは、
互いに話をすることは一応禁じられたんです。というのは、その回はあくまでも技術講習でして、
「単独で山に入り、悪天候のために雪洞泊をしなければならなくなった」
という想定だったので、互いに助け合ったりすることはできなかったんですね。
この地方は豪雪地帯もあり、森の中は3月とはいえ2m近い雪が残っていました。
木の間が開けたところに出たのが2時過ぎくらいでしたね。
天候は晴れていて、気温も5、6度はあったと思います。
おそらく夜間でもマイナス2、3度くらいのものだったでしょう。

研修で事故があってはいけないということで、季節や場所が考えられていたんです。
それは体験中に凍死なんてことがあれば洒落になりませんからね。
皆が集められて、1時間ほど雪洞掘りのしかたを実際に見せてもらいました。
あの、雪洞といえば、秋田県の「かまくら」って知ってますよね。
あそこまで大掛かりなものではありません、山中で吹雪にはばまれ、
一泊するための簡易なものを掘るという設定ですから。
とは言え、手だけで作業するのも無理があるので、
登山携帯用の軽量な折りたたみスコップを貸していただきました。
長さが短くて使いづらいものでしたが、そんなことは言ってられません。
説明が終わると、参加者はバラバラになって自分の場所を決め、
教えられたとおりに雪洞を掘り始めました。まず雪の深く積もった風の当たりにくい場所を探して、
そこの雪をある程度手で固めます。それをしないと崩れてくるんです。

それから入り口を掘るんですが、穴はやっと頭と肩が入る程度の大きさです。
風が吹き込まないようにするため、小さいほうがいいんです。
あの、茶道の茶室の入り口ってせまいですよね。あんな感じを想像してもらえれば。
で、1mほど掘ったら直角に曲がって体を横たえるスペースを掘ります。
高さは1mなかったと思います。だから、しゃがんだ状態だと頭が天井に当たります。
窮屈だと思うでしょうが、あくまで緊急用ですから、
そんなに掘る時間をかけることはできませんし、目も開けてられないくらいの吹雪かもしれません。
それに、せまいほうが内部が温まりやすいんですよ。
講習のメンバーは、互いに離れたところに雪洞の場所を決めましたから、
もう単独行と同じでした。とは言っても、
2時間おきくらいに佐々木さんが様子を見に来てくれましたけどね。

しっかり天井を固め、寝ている間に落ちてこないようにしました。
それから、足の側の壁に切り込みを入れて棚を造り、そこに太いロウソクを立てました。
これは暖をとるのと、中の酸素の状態を確かめるためです。酸欠だと消えます。
中では登山用ストーブで煮炊きもしますからね。
空気は、ウインドブレーカーをカーテン代わりにした入り口の他に、
2ヶ所天井に空気穴を開けていたので、酸欠の危険はなかったはずなんですが。
マットを敷き、さらに寝袋を伸ばして入ってみると、
寒さは全く感じませんでした。天井は30cmくらいの厚さなので外の光を通しますし、
ロウソクの火が反射して中は明るかったですよ。
そうしていると、入り口から佐々木さんが顔を出して中を見回し、「うん、合格だね。
 学生時代に経験してる人はやっぱり違う」こう褒められました。

それから、中でストーブを使って肉入りラーメンを作って食べ、
その頃には外はすっかり暗くなっていました。8時ころになって、また佐々木さんが来て、
「ここは快適だねえ。まだ早いけど、寝るのも訓練の一つだから、早めに寝てください。
 夜中には何度か見回りに来ますから、安心して」こう言われました。
気温はだいぶ下がっていて、昼は溶けて汗をかいたようになっていた雪洞の壁が、
固くしまって、崩れ落ちてくる可能性はなさそうでした。
でもね、この夜を楽しみに参加したんですし、翌日はハードな山登りもないので、
持ってきたウイスキーを雪で割ったのをちびちびやりながら、
寝袋の中で本を読んでたんです。その頃にはロウソクは消して電気ランタンを使ってました。
その本がねえ、怪談ものだったんですよ。ああはい、お恥ずかしいですが、
いい歳して怪談が好きなんですよ。でもね、それが怪異を呼びこんだとは思ってはいません。

怪談って環境が変わったときとか、例えば学生のキャンプなんかでよく語られるでしょう。
だから、余裕のある山行にはよく持っていくんです。
枕元の紙コップのウイスキーをちびちびやりながら、1冊めの終わりあたりまで読みました。
そのとき、足のほうでガサガサという音がしました。
雪洞の中は、外の音はほとんど聞こえません。そのかわり内部の音はよく響くんです。
すぐに気がついてそちらを見ました。そしたら、雪の壁から少しずつ何かが出てきたんです。
白く、細長いものでした。ええ、壁が白い雪なのでそれと比較して色がわかりますが、
皮を向いた木の枝のような白さで、最初は実際に木の枝だと思ったんです。
森のなかですからね、埋もれた藪の低木の枝が、何かの拍子につきだしてきたのかと。
黙ってみているとそれは30cmほども中に出てきて、ころんと落ちたんです。
「骨?」そういう形に見えました。それで、拾い上げようと体を起こしたとき、

骨が落ちたあたりの壁から目の前にズッと、動物の顔が出てきたんです。
それもぐずぐずに腐った・・・ 「ああああっ」くぐもった声をあげてしまいました。
タヌキ。イタチ・・・種類は今もわからないです。それほど形が崩れていました。
パニックになりますよね。半身を起こした体の数十cm先にそんなものが飛び出したんですから。
寝袋に入った両足を上げてとっさに蹴ろうとしたんです。
雪洞内なので走って来げ出すわけにいかず、攻撃に出たんだと思います。
でも、たしかに蹴ったはずなのに、動物の顔はそのままで。
いや、少しずつ変化していました。腐汁で固まったゴワゴワ毛がつるんとなっていって・・・
人の顔に変わりました。ジイさんの顔だと思いましたが、これもやはり腐って、
頭蓋骨に肉がへばりつき、両目は落ちて黒い穴になっていました。
「あわわわわ」うつ伏せになり、這って逃げようとしたとき、背後のものが叫びました。

「マゴは元気か~、生きているか~」こう聞こえました。
「うわーああああ」わたしは絶叫して立ち上がったので、雪洞の天井が破れ、
どさどさと雪が落ちてきました。雪崩状態です。何がなんだかわからない状態で叫び続けていると、
「おーい、どうした大丈夫か」佐々木さんの声が聞こえ、わたしはまもなく掘り出されたんです。
佐々木さん引っ張りだされた状態で、見たことを話したんです。
そしたら佐々木さんは黙って聞いてくれてたんですが、「マゴは元気か」という声のことを言ったとき、
「うむ、それは・・・」と何か心当たりがあるようにうなずいたんです。・・・後で聞いたことですが、
5年前、そのあたりに孫の男の子を連れて山菜採りに来ていたジイさんが行方不明になり、
男の子だけは無事で見つかったんだそうです。雪が消えてから近辺を捜索し、
ジイサンの遺体が発見されましたが、もうすっかり骨だけになっていました。
それと、ジイサンの骨と交じるようにして、小動物の骨も見つかったんですよ。






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