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一人と一匹と・・・

2013.08.05 (Mon)
小学校6年の夏休みのこと。
その日は土曜日で、両親は中学生の兄のサッカーの試合の応援に行ってて、
自分は一人で留守番をしていた。
今日は夕方過ぎまでだれもいないことがわかっているので、
兄と共同の部屋を自由に使ってごろごろしてた。
すると、下で「ごめ~んくださ~い」という間のびした声が聞こえた。
下に降りてみると玄関が開いてて、
黒いスーツを着た男の人が外に立っていたが顔は見えない。
なぜかというと、その人はすごく背が高いからだ。
「鍵かかってなかったんで開けました。ちょっとお話があります、入ってもいいですか~」
そう言うので、特に怪しいとも思わず「・・・どうぞ」と言ってしまった。

その人は身をかがめるようにして鴨居をくぐった。
細長い頭を坊主刈りにしていた。「やあ、入れてくれてありがとう。
 君、◯◯□□君だよね」こっちをじっと見ながら聞いてくる。
反射的に答えようとしたとき、居間にいたと思われるポメラニアンのムクが、
火の玉のようになって吠えながら飛び出してきた。
一人で留守番と書いたけど、ホントは一人と一匹だったんだ。
ムクが吠えながら、その人の腰のあたりに飛びつこうとするのをなんとか抱きとめた。
口からよだれを飛ばし、ギャウギャウと暴れている。

背の高い人は一歩後ずさったが、
それでも自分のほうから視線をはずすことなく、
「いいワンちゃんですね。力のある犬です。・・・あなた◯◯□□君だよね、
 返事してください」と、また聞いてきた。
そのとき、「これに答えてはいけない」という気が強くしたんだ。
ムクの様子が変だったし、なによりその人のこっちをじっと見つめる目が、
黒目だけになっているのに気づいたからだ。
まだ昼なのに、外がすごく暗くなっていた。

自分が黙っていると、その人は困ったような顔になって、
「ひとこと返事してくれるだけでいいんです。◯◯□□君ですよね」
「・・・今大人はだれもいないんで、また後で来てください」
「それは知ってますよ、あなたに返事してもらうために来たんです。◯◯□□君!」
ますます答えてはいけないという気が強くなった。
「返事をするのが一番簡単なんだよ。それとも力ずくで連れて行かれたいの!」
その人は怒ったように言って、自分のほうに手を伸ばしてきた。
それを避けようとしたときに、力がゆるんでムクが手から飛び出し、
その人の膝から登っていって、首筋に噛みついた。

その人はムクをぶら下げたまま、「ムクという名前だね、
 離しなさい」と情けない声で言った。ムクが噛みついたまま「ウアウ」とうなった。
それを聞くと、ちょっと驚いたように「あれ変だ、ムクじゃないな。・・・◯◯△△」
またムクが「ウアアア」とうなった。ちょっと驚いた。
◯◯△△というのは4年前に亡くなったおじいちゃんの名だからだ。
自分が「ムク、やめろ」と言って下から足を引っぱると、
ムクはすたっと玄関に降りたが、まだその人のほうを見てうなっていた。
首筋に歯型がついて赤くなっていた。「・・・守りが固い家だな~、
 ちっともはかどらない。いいです、帰りますよ。いずれまた来ます」
そう言って後ろに下がって戸を閉めた。

ムクを抱き上げて呆然としていたが、しばらくたって戸を開けたら、
外は明るくなっていて、もうその人の姿は見えなかった。
夜になって両親が帰ってきてからこの話をしたけど、まともにとりあってもらえず、
「変なセールスマンは、誰もいないからと言って帰ってもらえ」という感じだった。
ムクはずっと玄関にうずくまっていたが、なんだか調子悪そうだった。
月曜日に動物病院に連れていこうと話していたが、
次の日になって姿が見えなくなり、
探したらベランダの下から軒下にもぐって死んでいた。




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