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電ビラの話

2015.10.20 (Tue)
これからさせてもらうのは電ビラの話なんだ。電チラとも言うな。
あの電信柱に貼ってある不動産の広告のことだよ。電柱ビラ、電柱チラシってこと。
もう10年以上前のことだ。俺がしがない業界誌の編集部にいたときの話。
ま、今もしがないのには変わりないけどな。
先輩編集員と取材の帰り、ぶらぶら駅前を歩いてたら、
電信柱にすげえチラシが貼られてた。『「売主」だからできるサービスでモニター制度導入。
礼金10万、手数料なし、お祝い金現金100万、100万円分の設備サービス、
月々6万円、駅近9分』・・・当時は世間知らずだったし、転居を考えてたから、
先輩に聞いてみたんだ。「こういうのどう思います? まずインチキですよね」したら先輩は、
「うん、これは電力会社の許可を得て貼ったもんじゃないだろ。違法広告だ。
 つまり『売主』とやらは法律違反をなんとも思ってないってことになる。

 しかも連絡先が固定電話じゃなく携帯番号だろ。怪しいなんてもんじゃない」こう答えた。
「ですよねえ」 「気になるのか?」 「いやあ、この条件通りだったらスゴイと思って」
「うーむ、設備サービスってのは、あらかじめついてるエアコンやガス水道のことだろ。
 お祝い金100万というのは、一軒家を買う場合、値引きって意味ではありかもしれんけど、
 賃貸アパートじゃあちょっと考えにくいなあ」「やっぱ、そうですよねえ」
「でも気になるんだろ、連絡してみたらどうだ」「え?」
「別に会社の携帯からかける分には番号知られたってかまわねえし、この経緯を一部始終、
 取材して俺らの雑誌に載せたら企画として面白そうだ。
 ま、月6万程度なら経費としても問題ない。社に戻ったら編集長に話してみるわ。
 だけどこれ、住むのはお前だからな。しかしこのビラだけだと、一軒家か部屋か、
 購入するのか賃貸なのかもわからねえな。巧妙に書いてある」

ということで、社で編集長に話したら、「ま、連絡してみたら」ってことだったので、
俺が携帯でかけてみた。したら通じたんだよ。相手は抜けたような声のオッサンで、
翌日、ビラの住所の近くの喫茶店で会うことになった。
先輩は「俺が叔父ってことでついてってやるよ。それから写真も撮る。
 それを断るようなら話はなかったってことにする。でもよ、たぶん行けば、
 タッチの差でそこは売れてしまって、別のもっと条件悪いのを紹介されるだろうな」
喫茶店に9時にやってきたのは、背の低い60代に見えるオッサンで、
人の悪い人相には見えなかった。その物件もちゃんとあった。で、これが、
2間と台所だけの平屋の一軒家だったんだよ。蔵を改造したってことで、壁は漆喰。
「だから天井は高いけど、湿気はこもります」オッサンはそう言った。
会社からはそこそこ遠いが、広告どおりに駅が近いので不便ではなかった。

先輩の言ってたとおり、設備費は既存のもののことだったが、
なんとお祝い金100万は本当だったんだ。礼金を引かれた90万を家賃と相殺して払うって。
つまり1年以上ただで住めるってことだ。だだしモニターとして、
月いちでレポート、住んでみての感想を書いて出すように言われた。
ま、文章を書くのは苦痛ではなかったからOKして、契約することになったんだ。
先輩は、明らかな詐欺ではないのが少し不満そうだったけど、
この家主には内緒で、顛末を記した連載をうちの雑誌に載せることにした。
前のアパートを解約して、荷物はほとんどなかったから、引っ越しは1日で終わった。
で、その家での暮らしが始まった。うーん、編集部の中には「事故物件じゃないか」とか、
オカルト的なことを言うやつもいたけど、その当時の俺はまったく信じちゃいなかった。
住んで10日しても、変な音が聞こえるとか、

虫や黴、壁のシミなんかが出てくるとか、そういったことは何もなかったし。
1ヶ月しても特に何も変わったことがなかったんで、社の連載の話は沙汰止みになった。
あと、近所の店や住人にさりげなく取材したけど、事件が起きたなんて話は誰もしてなかったな。
大家のオッサンがしばらく住んでいたみたいだった。
レポートはあたりさわりのないことを書いて、アンケートとともに郵送した。
あとまあ、電車通勤はおっくうなんであまり外出しなくなったな。
ほら編集の仕事、特に月刊雑誌の場合、忙しいのは月のうちの10日ぐらいなんだよ。
その間は社に泊まり込みになるが、それ以外の期間は直接取材に出るってことで、
出社しなくても大丈夫なことが多い。あとなあ、寒かったんだよ。
これが5月の話なんだが、特に床が寒い。風がスースー布団に吹き上げてくる感じ。
もと蔵ってことだたったからそうなんだろうと思っていたけどな。

これから夏場に向かうことだし、涼しい方がかえって好都合くらいに考えてた。
けど、ある朝、咳き込んで起きてしまった。
もう6月になって最高気温は20度を越えてたのに、
体がものすごく冷えてたんだ。あわてて風呂沸かして入ったら、いくらか具合がよくなった。
それまでは布団を敷いて寝てたけど、ベッドを買うことを考えたんだ。
ベッドが入ってからは体の冷えるのは止まったが、真夏だしこれは当然だろう。
で、残暑がようよう終わりかけた9月に、先輩や編集部のやつらが遊びに来たんで、
使ってないほうの部屋で車座になって酒を飲んだ。
したら、みながやっぱり、尻が冷たいって言い出したんだ。
それも「冷却装置とかが床下にあるんじゃないか」なんて言うやつもいた。
しかしそれは冗談としてもありえないよなって、そのときは思った。

10月に入ると、もう寒いなんてもんじゃなかった。
外のほうが暖かく感じられるくらい、床が冷えたんだよ。もちろんエアコンはつけたし、
それ以外にも石油ストーブを買ったんだ。けど、空気は温まるが、
足元が冷たい。それで無駄な出費とは思ったが、床暖のカーペットを買うことにした。
その月の下旬のいつかの日だ。夜ベッドに入ったら寒くて寝られない。
それで起きてストーブをつけようとしたら、体が動かなかった。
金縛りになってたんだな。なんとか目は開けることができたが、
それ以外はどうにもならない。時間は夜中の1時ころだったと思うよ。
でな、ピクピクしてると、床から何か白いものが何本も上がってきたんだ。
うーん、イカの足に似てるといえば似てるが、あの吸盤とかがないやつ。
色は今、白って言ったけど、透明がかった氷柱みたいなもの。

それが10数本、ベッドのまわりを取り囲んでウネウネ動いてたんだ。
その一本が器用な動きでかけ布団をめくり、パジャマに先端がもぐり込んで、
肩のあたりに触った。そしたらそれがしびれるほど冷たい。
体は自分の意志では動かないのに、ガチガチと全身を震えが襲ってきた。
触手は、一本、また一本と布団にもぐって来て・・・
そのときに右手の肘から先が少しだけ動いたんだ。
それでいつも目覚ましがわりにしてた携帯で、編集部への短縮ダイヤルを押した。
そこで意識が途切れた・・・気がついたら、編集部のやつらが部屋に来てて、
俺はストーブの真ん前で、半身を起こされた状態で、仲間の上着を何枚も着せられてたんだよ。
「この冷え方は異常だぞ」編集長が言った。
それから家を出てサウナへと運ばれ、やっと人心地がついた。

でな、俺の話を聞いた編集部の一同によって、畳と床板がはがされた。
一見、おかしなところのない黒土の地面が出てきたが、
床下の空間はフリーザーの中みたいに冷えてた。
それで、黒土から5つくらい石の先のようなものが出ていた。
掘り返してみたら、それは石碑のようなもので、一つにだけ「飢渇死有無縁」
という字が彫られていたんだ。誰も意味がわからなかったんで調べたら、
昔の、江戸時代のときの飢饉の無縁仏を祀った碑だってことがわかった。
おそらく他も同じだと思う。・・・大家とは連絡がつかなくなっていた。
俺は新しい部屋が決まるまで、編集部のソファで寝泊まりしていたんだ。
そこの家は、建設会社の衝立で囲まれてて、看板を見た先輩が「あれは、ヤバイ業者だ」
って言った。その後2年近くそのままになってたが、俺らはかかわらないようにしたよ。

かぁおあぁじゃかいあぁお




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