食肉加工場の見学

2013.08.07 (Wed)
俺は地元で就職してるんだけど、つい一週間前、
東京の大学に行ってる中学時代の同級生から電話があった。
それぞれ別の高校に行って、こいつとは卒業以降連絡がなかったんで
「中学2年の社会体験学習のときのことを、
できるだけ詳しく思い出してみてくれ」
と思いもかけないことを聞かれた。「なんで今頃そんなことを聞くんだよ」
と問い返すと「わけは後で説明をする」と言う。

中学2年のときはそいつと同じクラスで、
たしか俺が班長で4人グループで郊外にある食肉工場の見学に行ったはずだ。
自分らが興味のある分野(俺らなら食品加工業)を選び、
電車で日帰りできる範囲から訪問先を決めて自分らで連絡を取り、
出かけて行って何らかの体験をさせてもらったり、
質問に答えてもらったりするという活動。
もちろん担当の先生も連絡してくれるし、校長からの依頼状も出る。

俺らはそのとき菓子工場をねらってたんだが、女子のグループにとられてしまい、
それでソーセージなどを作ってる工場にしたんだっけ。
俺が班長だったからアポの電話をかけたんだけど、
市内の有名工場には日時の都合が合わず断られてしまって、
酪農家の有志が立ち上げたという郊外にある小規模な工場を訪問したのを、
そいつ(以下友人)との話の中で思い出した。

当日バスと歩きで9時頃に着いた工場は、想像してたよりも大きな建物で、
若い女の人と年配の男の人が迎えてくれた。
俺らはまず生産過程を見学させてもらう予定で、
受付で衛生服と帽子をつけさせられ消毒をうけて工場内に入ったんだが、
最初に入ったホールのようなところに大きな神棚があるのに驚いた。
質問をすると「これは畜魂をお祀りしてあるのです」という答え。
どうやら原材料となる豚や牛などの御霊を鎮めるためにあるらしかった。

その後、原料肉から形をつくり、くん煙し、
加熱し包装するという過程をひととおり見せてもらった。
衛生にかかわることだけに体験することができる部分はなかったが、
俺らは場内にこもる熱気と機械の音、それから、
無言で黙々と作業をする少人数の従業員の様子に圧倒されっぱなしだった。

その後、小会議室であらかじめ考えてきた質問に
答えてもらうことになったんだが、友人がトイレに行きたいと申し出た。
「すぐそこだから」と簡単に場所を教えられて、
一人で行ったもののなかなか帰ってこない。
女の人が様子を見に行ったが、しばらくして戻ってきて、
「お友だちは気分が悪くなったようなので、保健室で休んでもらっています。
原料のにおいや熱にあてられたのかもしれませんね」ということだった。
俺らは友人ぬきであれこれ質問をしたが、どれもていねいに答えてもらった。
製品はほとんど外国に出しているというのが意外だった。

その後、まだ人のいない社員食堂で、
ハムやソーセージを試食させてもらうことになり、
とてもおいしかったのを覚えている。おみやげをもらって帰る段になって、
別の女の人につれられて友人が戻ってきたが、顔色がすぐれない。
俺らは学校に帰って今日の体験を新聞にまとめる活動をしたが、
友人はやはり具合が悪いようで、そのまま早退し翌日から学校を2日休んだ。

ここからは友人の話をまとめたもの。・・・俺、あのとき具合が悪くなっただろ。
トイレに行く前まではなんともなかったんだけど、
行く途中の廊下に開いているドアがあり、
全面に黒いカーテンがかかってる大きな窓があったんで、
何気なく入ってすき間からのぞいてみたんだよ。

そしたら、そこからずっと下の方に広い部屋が見えて、
大きな機械についた変電所にあるような電極がいくつもうなってた。
そのまわりを先がとがった白い頭巾をかぶった人が数人歩き回ってて、
床に大きな五角形の星が書いてあったと思う。
窓を触ってる手にビリビリという振動を感じて、
そしたら急に頭が猛烈に痛くなってその場にしゃがみこんでしまったんだ。

すると背後に俺らの相手をしてくれていた女の人がいつの間にかきていて、
保健室につれてってくれた。そこには白衣を着た年配の女の人がいて、
俺はゼリーのようなものを飲まされてベッドに寝かされた。
そこで夢を見たような気がするんだ。はっきりとは覚えていないけど、
ベッドの周りを、白い頭巾と白衣の人たちに囲まれている夢だ。
頭巾の穴からのぞいているのは人間じゃなくて動物の眼だと思った。

そこで目がさめると、頭痛はなくなってて、
そのかわり胃がちょっとムカムカした。
さっきの女医さんのような人が「だいじょうぶですか」と聞いたんで、
無理をして「迷惑かけてすみませんでした」と答えてお前らのとこに戻ったんだ。
でもその後も調子悪くて学校を休んだりしたけどな。

で、なんでお前のとこに連絡したかっていうと、
この間、大学の部活の合宿の後に血尿が出た。
顧問の先生が心配してくれて検査のために入院したんだが、
そのときに腎臓が片方ないことがわかったんだ。
医者の話では生まれつき片方しかないのだと思うが、
それにしては臓器の発育のしかたなどにおかしな点がある。

しかし体に摘出手術の跡などがまったくないんで、
そう考えるしかないだろうとのことだった。これを聞いたときに、
なぜかあの体験学習のことが頭にうかんできて気になったんで、
お前に連絡してみた。まあ気のせいだろうとは思うが。
ただネットであのときの工場を検索してみたんだけど、
まったくひっかからないんだよな。田舎なんで宣伝してないのかもしれんけど。
・・・こんな話だった。

先日の日曜日にバイクで、見学した工場の場所を思い出しながら行ってみた。
するとどうやら解体されてしまったらしく、大きな建物だった跡は草地になって、
その端のほうに黒い磨かれた石の碑がつくられていた。
碑には「畜魂」と大きく彫られていて、
その後に小さく五角形の星マークがついていた。
近所の人に聞くともう数年前に廃業してしまっているとのことだった。
従業員は地元採用ではなかったんで、
詳しいことを知ってる人間はいないと言われた。

『海は近い』ポール・デルヴォー






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