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梵字石の話

2015.11.08 (Sun)
じゃあ始めますが、この話ねえ、今もって進行中なんですよ。
だから、どうしたらいいかの解決策もお聞きしたくて。よろしくお願いします。
4年前ですね。僕が中1のときです。その日は、先生方の研究会があって、
午前中で学校が終わったんですよ。ま、それだけならわりとあることですけど、
部活動も全部なかったんです。これはすごく開放感がありまして。
でね、いったん家で昼飯を食べてから、男子8人で近くの河原に集合しました。
石積みアートってのをやろうとしたんです。
僕らの学校は総合学習が盛んで、いろんな地域講師の人が頻繁に学校を訪れて、
講演会をしてたんです。その中の一人が、石積みアートを日本で最初に始めたって人で。
小さめの石をいくつか持ってきて体育館で実演もしてくれたし、
世界で行われている石積みアートのスライドをも見せてくれたんです。

驚きましたよ。小さい石の上にその何十倍も重量のある大きな石が乗ってたり、
ボンドでくっつけたとしか思えないバランスのものもあって。
子どもはそういうのに影響されますからね。
それで、自分らでもやってみようってことになりました。
天気がいい日で、河原の石はみんな乾いてましたし、
大きいのや小さいの、色も青から茶褐色までさまざまで、
積むのにはうってつけだったんでしょうが、そこはやはり子どもですし、
経験もないですから、スライドで見たようにはうまくできなかったんです。
それで、小一時間もするとみな飽きてきて、
最後は誰が一番高く積むことができるかの競争になったんですよ。
ええ、一番高い子は自分の背丈を超えて積み上げていました。

でね、そうしてるうちに「あー、なんだこれ」って一人が声を上げたんです。
みながわらわらと集まっていくと、ちょうどCDくらいの大きさの平たい石を見せました。
その裏側、裏は少し湿ってたんでわかるんですけど、そこに大きく、
字とも記号ともつかないものが黒く書かれてあったんです。
「何だこりゃ」 「ああ、俺これわかる。梵字だろ。あの墓にある卒塔婆に書いてるやつ」
「すげえ、いいな。他にもないかな」ということで、
平べったい石を手当たり次第ひっくり返したら、似たようなのがもう3つ見つかったんです。
でもね、書いてある字は違ってましたね。それで、僕も一つ見つけたんですよ。
他のやつは羨ましそうにしてましたね。その後、
「これ、どうしようか?」って話になったんですが、誰かが、
「タコ和尚に見せよう」って言って、みな納得してそうすることにしました。

タコ和尚ってのは、蛸に似た和尚ってことじゃなくて、
前に総合学習の話をしたでしょう。地域伝統の和凧を作っていて、
それを学校に教えに来てくれてた和尚さんのことです。
グランドで定期的に凧揚げの実習もしてましたし、僕らには身近な存在だったんです。
お寺は河原から20分ほど歩いたところにあって、
そのときの8人全員の家が檀家になっていました。で、石を持ってぞろぞろ行ってみたんです。
けっこう大きなお寺でした。これは地域にお寺そのものが少なかったんです。
代表を決めて住宅のほうの玄関のチャイムを押すと、
和尚さんは在宅ですぐに出てきてくれました。事情を話して4個の石を見せると、
かなりの興味を持ったようでしたが、「梵字に見えるけどちょっと違うところもあるねえ。
 うちは密教じゃないから、あんまり詳しいことはわからないけど」

こう、やや頼りないことを言いました。そのお寺は禅宗だったんです。
それから家に戻って虫メガネを手にしてくると、石を一つずつためつすがめつ見てましたが、
「うーん、これは筆字に見えるけど、そうじゃないね。石そのものの模様みたいだ」
そう言って、今度はタガネと金づちを持ってきたんです。
「ちょっと割って見るけどいいよね」石の端のほうを家の土台のコンクリに固定して、
タガネでカコンと割りました。それで割れ口を僕らに見せてよこしたんですが、
たしかに黒い部分は内部にまで入り込んでいたんです。
それと、これは他のやつに確かめてないので僕だけかもしれませんが、
石が欠けるときに、オーンという鐘の余韻のような音が頭の中に響いたんですよ。
和尚さんは「この石ね、ちょっとお寺で預からせてくれる? 調べてみるから。
 わかったことは今度学校で凧揚げの実習のときに来てくれたら知らせるから」

こういう話だったのでみんな納得して、その後は2グループに分かれて、
友達の家でゲームなんかをして帰ったんです。
思えばこれが、和尚さんを見た最後だったんですね。その夜、
和尚さんは本堂で倒れているところを家の人に発見され、救急車で運ばれましたが、
その日のうちに亡くなったんです。脳溢血ということでした。
それがわかったのは翌日の夜で、学校ではまだ誰も知らなかったんです。
でほら、うちは檀家なものだから、2日後にあった葬式には母親が行ったんです。
そしたら返ってきてからこんな話をしました。
「あの和尚さん、偉いっていうか格式が高かったんだねえ。
 お葬式にはものすごい数のお坊さんが来てたよ。若い人が多かったけどね」
あの石のことは、そのままうやむやになってしまいそうでしたが、

仲間の一人が、お参りに行った家族についてお寺に行ったときに、
出てきた奥さんに、思い切って石の話をしてみたんだそうです。
そしたら、「ああ、あの梵字が書いてある石でしょう。あれね、
 お葬式のときに本山からたくさん若いお坊さんたちがきて、
持って行かれてしまいましたよ」こんな答えが返ってきたそうです。
それでね、和尚さんの葬式から3ヶ月くらいして、急に、
あの河原の護岸工事が始まったんです。市役所勤務の父親が驚いていたのを覚えてます。
「護岸工事たって、市も県の予算もついてないところで、
 急に国土省が介入して始まってしまった。でもなあ、あんなとこ工事してどうなるんだ?
 洪水のおそれもないし、貴重な生物が住んでるわけでもなし。
 何かの利権があるとも思えんが業者は県外だし、わけがわからんな」

で、工事は半年近くかかって、河原の石はすべて撤去され、
コンクリートの土手になりました。僕らは中学を卒業しまして、
その間特におかしなこともなかったんです。あのときの8人は、
ほとんどバラバラの高校に進学しました。でね、2週間ほど前、
そのうちの一人から連絡がありました。8時ころ、家の固定電話にかけてきたんです。
それがこんな内容で。「ほら中1のとき、河原で拾った裏に字が書いてある石のこと覚えてるか?
 そうそう凧和尚が亡くなる前の日の。俺はもうずっと忘れてたんだが、
 今朝、家を出るとき玄関の芝生に、平べったい石があるのを見付けたのよ。
 何気なく足でひっくり返してみたら、そこに黒いあの、何てったけ、
 あそう、梵字が書いてあったわけ。それであんときのことをバーッと思い出してな。
 なんとなく薄気味悪くなって」

「ああ、それ覚えてるってか、俺も今思い出した。で、その石どうしたん?」
「まだそのまま玄関にある。いちおう表のほうを向けといたけど」
ここまで話したとき、電話の中でオーン、オーンという音がし始めたんです。
「何だこの音、お前んとこでテレビつけてるか?」
「オーンって音だろ。知らん。てかこれ、受話器の中でしてるんじゃないか」
「・・・」これで2人とも気味が悪くなって、電話を切ってしまったんです。
でねえ、その友だちはあのとき石を見つけたうちの一人なんですが、翌日急死しちゃたんです。
和尚さんとは違って病気じゃなく、自転車で信号待ちしてるとこを、
大型ダンプに追突されたってことでしたけど。偶然なんでしょうか。
え、その石がどうなったかはわかりませんよ。葬式にも行ってませんし。それでね、昨日の朝です。
うちの塀の近くで平べったい石を見つけたんです。いやまだ、ひっくり返してはいないですけど。



 

 

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