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エビ反り

2015.11.11 (Wed)
うちの60代の祖父の話です。祖父はけっこう大きな会社を経営してたんですが、
今は引退して会長職です。それと同時に、ある空手の会派の会長もやってるんです。
それで、自宅の敷地内にも空手道場があって、そこで子どもを教えたりもしています。
もっとも、実際の指導はしばらく前から師範代がやるようになってたんですけど。
で、1ヶ月ほど前から病気で寝込んじゃってるんです。
ええ、1時期は入院してたんですが、病状がいくらか回復したので自宅に戻りました。
でもね、病気自体の原因はいくら検査してもまったく不明で、
だから満足な治療はできなかったんです。
その症状というのが変わってまして、夜寝ると体がエビ反っちゃうんです。
あの、背筋のトレーニングってありますよね。
うつ伏せに寝て両膝を上に曲げ、両手も同時に後ろ側に反らすやつ。

布団に入って寝つくと、仰向けだったのがいつの間にかうつ伏せになってて、
しかも弓なりに反ってる。それで痛くて目が覚めるっていう・・・
ね、聞いたことがないでしょう。内臓や脳などはどこも何ともないんです。
だからね、医者は心因性のものだろうって見てるようでした。
ですから精神関係の薬を処方されて、病院ではエビ反りしなくなったんです。
でも、自宅に戻ったら薬を飲んでても、すぐにぶり返してしまって・・・
この繰り返しだったんですよ。それでほとほと困り果てまして。
祖父はすごくあせっていまして。というのも、会社のほうはまず問題はないんですが、
空手の協会のほうが、派閥争いみたいなことがあったんです。
祖父が寝込んでしまうとクーデターみたいなのが起きて、
反対派が役職を握ってしまうって、無理して自宅にいたんです。

ほら5年後の東京オリンピックで、空手が新種目として採用になったじゃないですか。
それとも関係があるみたいですよ。詳しいことはわかりませんが。
それでね、いろんな人に相談しましたところ、
何か霊的な障りがあるんじゃないかって言う人がいて、ある武道家を紹介されたんです。
その人は空手じゃなく、古武術関係で、◯◯柔術の達人というふれ込みでしたね。
まあ、とりあえずダメ元で来てもらったんですが、
これが80歳を過ぎた小さなお爺さんで。
羽織袴姿で背筋はピンと伸びてましたが、身長は150cmはなかったと思います。
実は僕も空手を齧ってるんですけど、未熟なものの目から見ても、
隙のない身のこなしでしたね。でね、爺さんは家に来て早々、
犬みたいに鼻を鳴らして、母屋から道場まで、塀の中を嗅ぎまわって・・・

それで、祖父と面会してしばらく話してから、
家族を呼び集めて最近の家の様子なんかを聞き質しまして。
「庭に犬小屋があるけど、犬がいないのはどうしてか?」って聞いたんです。
それが、立派な秋田犬を飼っていたんですよ。
でも、祖父がこの病気になる少し前に、突然死んじゃったんです。
朝起きて散歩に連れ出そうとしたらうつ伏せで倒れていて、
地面に吐いた跡がありました。いや、獣医さんには見せませんでした。
病気ならともかく、死んだ後に見せてもしょうがないと思って。
それでペット霊園に葬ったんです。このことを聞きまして、
爺さんは「ははあ」と言い、「犬が必要だ」って言い出したんです。
でね、「わたしの知り合いにいい血統の柴犬を飼ってる家があるからお借りする」って。

それから2日後に、爺さんがその柴犬を連れて家を再訪しまして。
でねえ、笑っちゃったのはその犬の名前が「太郎左衛門」だったことです。
利発そうな顔つきでしたが、時代劇でもあるまいし大仰すぎますよね。
で、爺さんは、犬のリードを持ったまま、最初のときと同じように鼻を鳴らして、
家のまわりを巡ったんです。その日は日曜だったので、僕も見てましたが、
爺さんと太郎左衛門は、道場の西側に来るとピタッと足が止まりまして、
太郎左衛門は吠えませんでしたけど、道場の床下に向いてリードをいっぱいに伸ばして、
眉間にしわを寄せました。何かある、って言ってるみたいでした。
爺さんが太郎左衛門の頭をひとなでして、リードを離すと、
太郎左衛門は一直線に道場の床下にもぐっていきまして。
そうですね、5分以上は床下にいたんですが、赤黒い何かを咥えて戻ってきたんです。

毛が蜘蛛の巣だらけになってましたが、それ以上に引っ張りだしてきたものが臭くて。
鼻が曲がりそうでした。なんと形容すればいいかわかりませんが、
ドブ泥と生ゴミと屍肉の臭い・・・ 太郎左衛門自身も臭かったんでしょう。
顔が歪んでましたね。で、引っ張りだしてきたのは、
小柄な太郎左衛門の体の半分より大きい、人形みたいなものだったんです。
色はそうですね、サラミソーセージの色です。
形は関節人形みたいに細い四肢がついてましたが、それがエビ反りの形をしてたんです。
太郎左衛門はその人形を爺さんの前に置きまして、
僕も近寄ってみたんですが、何でできているかはわかりませんでした。
爺さんは「これは呪(まじもの)だな。和紙を丸めて手足や胴体をつくり、
 その中にネズミの仔を詰め込んである」こう言ったんです。

続けて「おそらくはできたときにはネズミの仔らはみな生きてたんだろう。
 それが死に腐ってこの状態になった。会長さんの症状は、
 これが障りになって起きているものだ」
どうやら空手の協会の、反対派の誰かが呪いとしてセットしたということのようでした。
で、家の秋田犬が死んだのも、それに気づかれないように、
毒を盛ったのだろうって。それが本当なら怖い話ですよね。
その後、どうしたかというと、爺さんは顔を手ぬぐいでおおいながら、
呪物に縄をかけて家の庭木にうつ伏せの向きで吊るしたんです。
それからいったんどこかに出かけて、大量の松葉を軽トラに積んできまして。
呪物の下に丸木で井桁を組んで中に入れ、御札を大量に混ぜて火をつけたんです。
生乾きでしたからなかなか燃えませんでしたが、

いったん火がつくとこれがまたいがらっぽい臭いで。
呪物そのものの臭いと相まって、とても近くに寄れたもんじゃなかったです。
涙が出てきましたよ。でね、呪物の人形(ひとがた)は、中に子ネズミを詰めたものですから、
いぶされるにしたがって汁が垂れてきまして、エビ反りだった形がだんだんにゆるんで、
四肢がだらんと下に垂れ下がったんです。その状態で、松葉に灰をかけて火を消し、
これも用意していた白木のお宮さんのようなのに入れたんです。
一般家庭にある神棚に似たものでしたよ。爺さんは、
「これで呪詛は破れたし、破れた呪詛は仕組んだ者に戻っていく。
 それを待てばよいし、こちらからは相手の出方を見て対処すればよい。
 しかしこれまでだろうな」そんなことを言いまして、
呪物の入ったお宮さんごと軽トラックに積んで、街を流れる川の河口まで運んだんです。

そこで初めて、何事が呪文のようなものを唱えて川に流しました。
おそらく磯浜の海まで流れていって、そこで岩にあたって壊れて沈んだんでしょう。
この効果は覿面でした。祖父の症状はその日からピタリと治まりましたし、
2週間後、空手の反対派の人がたて続けに2人亡くなったんですよ。
2人とも50代の若さでしたが、心臓疾患による突然死です。
その人たちが呪いを仕掛けてたんでしょうねえ。
自業自得と言えばそうですが、恐ろしい、後味の悪い話ですよね。
その後は今のところおかしなことは何もありません。爺さんには多額のお礼をしまして、
道場にも教えにきてもらってるんですが、これがなかなかすごい体術の遣い手でした。
世の中にはこういう人もいるんですねえ。ああそれと、太郎左衛門には、
輸入品の超高級ドッグフードを1年分贈ったんですよ。がんばってくれましたからね。






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コメント
 魔を祓う犬といえば疾風太郎(早太郎)伝説ですね。あれはちょっと悲しいラストでしたが、太郎左衛門は無事で何より。あまつさえドッグフードの報酬まであるとはw
| 2015.11.12 22:57 | 編集
コメントありがとうございます
よくはわかりませんが、爺さんもにおいを嗅いでましたし
犬に関係ある古武道かもしれませんね
bigbossman | 2015.11.13 01:14 | 編集
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