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オイサキ様の杖

2015.11.18 (Wed)
市の介護サービスセンターで、デイケアの担当をしています◯◯と申します。
半年ほど前からです。そのあたりから、いろいろ関係のありそうなことが続いてて。
それが私自身にも降りかかってきたみたいなんです。
それで、ここに来て話をすれば、お知恵を拝借できると聞きまして。
初めは、山際さんという男性の方で、たしか86歳だったはずです。
日曜日にお一人で、巡回車で当センターに来られまして。この方は、
ほとんど介助なく、一人で何事もおできになりました。温泉に入浴されまして、
湯上がりを涼んでいるところに私が麦茶をお持ちしたんです。
そうしたら、「年取ってから寝てばかりいるようになったけど、夢を見るんだよね。
 昨日はオイサキ様に登ってきたよ」こうおっしゃられまして。
このオイサキ様というのは、市の郊外の山上にある神社なんです。

もちろん正式名称ではなく、介護センターには縁起の悪い話ですが、
お年寄りが「老い先短く」と願掛けをすると効験があると言われていました。
ええ、あちこちにある「ぽっくり地蔵さん」みたいなものです。
老齢になって体が不自由になったり、長く寝ついて家族に迷惑をかけぬよう、
ぽっくり逝きたい、とお祈りをする。でもねえ、これは無理からぬところもあると思います。
やはりいくら高齢になっても死ぬことは恐怖だと思うんです。
ですから、ここでいう「ぽっくり」というのは、苦しまず、
自分で気がつかないうちに、眠るようにあの世に旅立ちたいってことなんじゃないかと。
私はまだ若いですので、そのときになってみないとわからないのかもしれませんが。
まあそれで、お話を聞くことが私の仕事でもありますので、
「どんな夢でしたか?」と尋ねました。

「うん、それがね、あのオイサキ様の長い石段を、杖をついて登ってたんだよ。
 いやいや、実際にはもうそんなことができる歳じゃないけど、まあ夢だから。
 それで、さして疲れもせず鳥居の前まで来たら、境内に大きなテントが張られてて、
 中で人がたくさん茶飲み会をしてたんだよ。知った顔もおったけど、
 見知らぬ人が大部分だった。それでね、わたしも自分の杖を傘立てのようなのに入れて、
 履物を脱いで中に入ったんだよ。知り合いの幾人かとあいさつをしてね。
 あれこれ話をして、機嫌よく過ごしたんだ。それで、小一時間ばかりしたときに、
 神社のほうで神主が前に出てきて、何か呼びかけを始めた。
 そしたら皆がわらわらと立って外に出だし、わたしも行こうとしたんだが、
 履物はあったものの、自分の杖がどれだかわからず、
 迷っているうちに一本もなくなってしまってね、困ってた。そういう夢だったんだよ」

「ははあ、オイサキ様ですか。懐かしいですね。私は小学校の遠足以来ご無沙汰してます」
「今から思えば、もっと体が丈夫なうちに足繁く参拝しておればよかったね。
 あの石段は年寄りにはきついし、あれを登れるうちは、ぽっくり逝ったりはせんだろう」
「いえ、山際さんもまだまだお達者じゃありませんか」こんな会話をした翌日です。
その山際さんがお亡くなりになったんです。ええ、突然のことでしたが、
ぽっくりというわけでもなかったんです。日課の午前中の散歩にお出になったとき、
道路のちょっとした段差につまずいて転倒されたということでした。
そのとき大腿骨を骨折して腿の大動脈が傷つき、大規模な内出血が起きて、
それはそれは苦しんで亡くなったということでした。ええ、お気の毒でしたが、
これだけであれば、前日に伺った夢の話と関係があるとは思えませんよね。
ところが、それから1ヶ月ほどして、センターで地元中学校の吹奏楽の演奏会がありまして。

終わって中学生がお年寄りと交流しているときです。
お年寄り同士で「オイサキ様で杖をなくした夢を見た」という声が耳に入ってきたんです。
そちらを見ましたら、よくセンターに来られている、80代の女性同士が話をされてて、
どちらがおっしゃったことかはわかりませんでした。で、そのとき、
前に山際さんから伺ったことをちらと思い出しました。それでも、
まだ大事だとは思ってなかったんですよ。はい、そうです。
その女性のうちのお一人が、翌日亡くなられました。
歩行器を押してちょっと外に出た際、中学生の自転車と接触してやはり大腿骨骨折です。
ただし、死因はショックということでしたけど。それを聞きまして、
偶然だろうけど気味の悪いことだなあ、と思ったんです。オイサキ様というのは、
ほんとうは不吉な神様なのだろうか、などと罰当たりなことを考えたり。

それから1ヶ月ほどは、また特別なことはなかったんです。
それが、私自身がオイサキ様にお参りする夢を見てしまったんですよ。
ええ、山際さんのおっしゃてたとおりに、杖をついて石段を登っていました。
いや、もし私がご参拝に行くとしたら、杖を使うということはないと思うんですが。
その後も山際さんが言われてたとおりで、境内で何かの会が開かれいて、
センターで顔見知りのお年寄りの方々が、こちらを見て手招きされていました。
ここで、夢の中でしたけれど、山際さんの話は完全に覚えていましたので、
白木の杖を杖立に入れるとき、わからなくならないよう、爪で握りのところに☓印をつけ、
さらにすぐ取りやすい手前に斜めにさしたんです。やはりしばらくして、
神主さんがテントの外で何か叫び出し、みながわらわらと外に出始めました。
私はまず自分の杖をつかみ、それから履物をはいてテントを出たんです。

外では、オイサキ様の社殿の奥、そこからご神体になっている高山が見えるのですが、
みなは立ったままその山のほうを仰いでいまして、でも何かが見えたわけでもなかったんです。
これで夢は終わりです。気がついたら朝になっていました。
それでですね、私は右手をしっかりと握っていまして、手のひらの中に、
骨のようなものが一本あったんです。ええ、持参してきました。これです。
鶏のモモの骨よりやや細めで、長さも短いですよね。
このようなものはまったく心あたりはないです。前の晩は夕食、肉じゃがでしたし。
それで、ここわかりますでしょうか。☓印がついています。
これは夢の中で私が、自分の持っていた杖につけたのと同じじゃないかと思うんです。
大きさは縮小されえているかもしれませんが、あのとき自分が爪でつけた。
ええ、それはもちろん、その日は足元に気をつけて過ごしました。特に何事もなかったです。

それで、この骨、どうしたらいいものかと思い悩んでいたんですが、
その週の土曜日、私は休みになっていましたので、思い切ってオイサキ様に持って行ったんです。
石段はきつかったですよ。夢の中ではすいすい登れたのに、
実際は青息吐息になりました。介護の仕事で体力はついたかもしれませんが、
息切れはどうにもならなかったですね。途中では、登る人も降りる人もいませんでしたし、
参道も境内もガランとしていまして。みくじや御守の授与所には、
アルバイトらしき女の子しかおりませんでしたが、
そこで、お祓いをしていただきたいと申し出たのです。
そうしましたら、社殿から神主さんが出てこられましたが、夢の中では、
鶴のように痩せた方であったのが、似てもつかぬ赤ら顔の太った方でした。
山際さんのことから始めて、夢の内容もお話しました。

神主さんはぽかんとした顔で聞いておられましたが、
私がハンカチから、この骨を取り出しますと急に顔色が変わって、
「なんて不浄なものを持ってくるんだ。その骨はアレだろう。うちの社では、
 前代の自分からそういうことはやってないんだ。ええ、見たくもない。
 持って帰ってくれ」 こう怒気を含んで叫んで荒々しく席を立たれ、
社殿に入ってしまって、いくら待っても出てこられることはなかったんです。
私はすっかり困り果ててしまいまして。それで、いろいろつてを頼ったんですが、
ある知り合いからこちらの会のことをお聞きしまして。
それでこうやって持参したわけです。 え? 家族はいるかって?
私ですか? いえ、3年前に主人とは協議離婚いたしまして、子どもはいませんでしたので、
現在は一人暮らしです。それが何か関係があるんでしょうか?






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コメント
 本筋とはあまり関係ありませんが・・・悩み相談を兼ねた語り手さんが、最後にルーム側から質問される場合がありますよね。多くは唐突な内容に思えるんですが、これも怪異の謎を解く鍵だったりするのでしょうか。
| 2015.11.26 15:47 | 編集
コメントありがとうございます
怪談ルームのメンバーはオカルト上級者揃いなので
たぶんそうなんだと思います
一見ピントが外れているようでも何かの意味があると
bigbossman | 2015.11.26 22:30 | 編集
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