FC2ブログ

聞いた話 某国の板囲い

2015.11.19 (Thu)
これは自分の所属しているライター事務所の先輩から聞いた話です。
Aさんということにしておきます。
およそ10年前、中東某国にユダヤ教の某国が侵攻するという事件がありましたが、
そのときの話です。Aさんは今は50代半ばで、つまり当時は40代、
まだまだ動ける年齢でした。イスラム教関係のルポをするために、
若いフリーのカメラマンと現地入りしてたときに、戦闘に巻き込まれたんですね。
もちろんAさんが行く前からずっときな臭い噂はありましたし、
いつ戦争が起きてもおかしくない状況であったわけですが、
それでもこの2人は現地入りしていました。ですから当然、
事前に退避路は確保してあったわけですが、Aさんはカメラマンと相談の上、
現地に留まることにしました。これをチャンスと捉えたわけです。

空爆が南部のほうで始まり、一時停戦を経て地上軍の侵攻が始まりました。
このときの攻撃で、某国民の5人に一人が家を失ったと言われています。
Aさんらが滞在していたのは首都ではありませんでしたが、
その街もすぐに、あちこちに瓦礫の山ができたそうです。
Aさんらは攻撃目標になりそうなホテルを捨て、
取材をしていた現地人の家にいたのですが、そこの地域にも夜間、空爆があり、
生きた心地がしなかったそうです。朝になるとそこここの建物が崩れ去っていて、
路上では悲嘆に泣き叫ぶ声が聞こえていました。Aさんは海外生活は慣れていましたが、
戦場カメラマンといった、その道のプロではなかったので、
さすがに限界を感じ、あちこちのつてを頼って退避ルートを探していたんです。
ある日、カメラマンといっしょに裏通りの道を歩いていると、

「Aさん、ちょっとちょっと、あれ見えますか」とカメラマンが瓦礫の中を指さし、
そこは崩れた家々の脇の空き地らしく、20人ほどの人が路上生活をしていました。
「ん、何? どこ?」Aさんが意味がわからず尋ねると、カメラマンは、
「ほら、あの男の子の入ってる箱囲いみたいなやつです」と言いました。
見ると、6歳以下と思われる男の子が、2m四方ほどの急ごしらえの板囲いの中に、
ぽつねんと座っていました。囲いの中には、崩れた住居から持ちだした、
毛布や鍋など、わずかな家財道具が入っていて、敷物を敷いた一隅に、
その子は膝を抱えていました。ほとんど雨が降らないのでできるんですね。
おそらく家族は街中に食べ物を探しに行っているのだと思われました。
「んー、あの子がどうしたん?」 「男の子じゃなくて足元のほう」
Aさんはそちらに視線をのばして、思わずタバコを吐き出しそうになりました。

箱の中で、そこは地面の砂がむき出しになっていたんですが、
3歳くらいの女の子の上半身があったんです。胸より上の部分ですね。
これは土に埋められているわけじゃなく、かといって、
死体の一部が放置ないし安置されてるわけでもありません。それは一目でわかりました。
なぜなら、女の子の片方の目はつぶれていましたが、
残り一方は見開かれて、ときおり視線を動かしていたからです。
「あれ、幽霊ですよね」 カメラマンが言い、「そうとしか言えないよな」とAさん。
続けて「この空爆で亡くなったんだろうな、囲いの中にいるのは男の子の妹だからか?」
「霊っているもんなんですね。日本じゃ見たこともないし、考えたことすらなかったです」
「・・・まあ、それだけ死が近いってことだろうな。日本とは違う」
「でも、イスラムって幽霊は信じないんでしょう?」

「いや、魂は当然認められているが、神がすべて支配してるってことだろ。
 世界のどこでも物は下に向かって落ちるし、重力が働いてるのに変わりはない。
 それと同じで、幽霊の法則というものがあるとすれば、
 宗教で変わることもないんじゃないか」
「うーん、そうなんでしょうね。実はこないだ一人でここ通ったときに見たんです。
 それからずっといるし、Aさんにも見えるかと思って」
「見えるよ。だけど俺も日本では見たことがない。
 タイの田舎で一回それらしい経験はしたけどな」
「あの子は、女の子の幽霊に気がついてるんでしょうか? 
 一度も視線を向けないんですけど」
「・・・足の先なのに、一度も視線を向けないほうが変だろ。

 当然見えてるんじゃないか。それにあの場所だけ物が置いてないのも不自然で、
 他の家族にも見えているんじゃないかと思う」
「それで、何もしないのは宗教のせいとかでしょうか?」 「・・・わからんな」
立ちどまってこういうやりとりをしたんですが、
Aさんらにできることは何もありませんでした。悲惨は国中にあふれていたからです。
この侵攻時には100万人近い避難民が出て、その半数近くが子どもだったんです。
その後、その地区には2日間隠れ住んでいましたが、
軍用トラックに便乗して、暫定国連軍のいる場所まで行けることになりました。
世話になっていた家には、そのときできるだけの礼をして、
当地を離れたんですが、トラックとの待ち合わせの場所に向かう途中、
回り道をしてその空き地を通ったんです。

そしたら、板囲いはありましたが、中の家財道具は減っていて、
男の子もいませんでした。「ほら、あれ」カメラマンが前と同じ所を指さし、
そこには女の子と思える、頭頂部の髪だけが見えました。
「地面に潜っていってるんですかね」 「わからん」
「家族はどっかに移っていったんでしょうか?」 「そうだろうな」
「あの子を残して?」 「できることはないんだよ」 Aさんはそう言って、
そちらに向かって手を合わせ、カメラマンもそれに従いました。
この後も、さまざまな出来事があったものの、
Aさんとカメラマンはなんとか無傷で日本に帰り着き、
そのときに撮った写真は雑誌社等で買い上げられて、それなりのお金になったそうです。
ま、こんな話だったんですが、後日談があります。

Aさんはこの2年後に現地を再訪したんですね。
急ピッチで復興が進められているのは首都だけで、地方都市は傷跡がほとんど残っていました。
「そこの空き地にも行ったんだよ。これは興味本位ということじゃなく、
 世話になった現地人に改めて礼をするためだよ」
「それで、どうなってましたか」 これは自分です。
「空き地はなくなって、粗末な家が建ってたが、
 空爆された家の家族はどっかに引っ越していったみたいだった。 
 その家族に小さな女の子がいたのかどうかもわからなかったよ」
「あの、カメラマンの人は、そのときの写真は撮らなかったんですか?」
「いや。そんな何かを背負ってきそうなことはしないよ、プロだから」
「ですか。そこでは・・・」 「ちょっとしたお供えのようなことはした」 ということでした。






関連記事
スポンサーサイト




トラックバックURL
http://scoby.blog.fc2.com/tb.php/962-2f844bc1
トラックバック
コメント
管理者にだけ表示を許可する