FC2ブログ

ドッペルK

2015.11.21 (Sat)
ある公立大学の文学部にいたんです。これってつぶしがきかないんですよね。
ええ、就職活動は はなからあきらめていまして。国語教師の免許を取ったんで、
講師をしながらなんとか食いつないでいこうと思ってたんです。
だけど、先輩のつてがあって、今はあるタウン情報誌の編集部にいます。
いやあ、何とか一人で食っていけるだけの収入しかありません。結婚とか不可能です。
でもね、俺みたいな人はけっこういて、いくつもの編集部を掛け持ちしてやってるんです。
フリーの編集者ってことですね。俺もそうするつもりです。
あ、でね、これは俺が大学4年のときの話なんですけど、
俺自身に起きたことじゃないんです。だから、聞いてて意味不明だと思います。
俺も何がどうなってるのかよくわかんないですから。
ただね、人ひとり行方不明になってるんです。三河って名前にしときますね。

俺らが4年に進級し、卒論書かなきゃってことになって、
三河と同じ担当教授につきました。文学部ですからね、
たいがいは作家論か作品論をやるです。俺ですか? いちおう筒井康隆さんで書きました。
お恥ずかしい。内容はひどいもんでしたよ。まあそれはともかく、
三河に題材を聞いたら、芥川龍之介って答えました。
こいつは俺とは違って出来がよかったですし、ああ、正統派だなって思ったのを覚えてます。
でね、それから三河とはしばらく会わなかったんです。
4年生ですから授業はぽつぽつとしかないし、みなバイトと就職活動、
あと公務員試験の勉強とかしてるんです。6月ですね、
担当教授に卒論の進行状況を報告する日があって、そのとき三河と顔を合わせまして、
そしたらね、もともと痩せ気味だったんですが、骨と皮ばかりになっててちょっと驚きました。

でねえ、こんな話するとなんなんですが、本についてる芥川の写真に、
頬のこけかたとか、そっくりだったんです。ま、髪型とかは違うんですが。
それで、いっしょに学食に行ったとき「お前、ちゃんと飯食ってるか?」って聞いたんです。
そしたら、「ああ、食ってるよ。最近すごい腹が減るんだ。けど体重は増えないね。
 体質なんだろうな」こう答えまして、で、実際そのときスゴイ食ったんです。
おかず4皿に大盛りライスとデザート。それ見て安心したんですが・・・
当然卒論の話になりまして、俺は筒井康隆ですから、
シュールレアリズムからの影響とか書いてたんですが、その方面も三河は詳しかったです。
いろいろ教えてもらいました。やつのほうは「今、芥川の「歯車」読んでるけど、
 どうしてもわからない部分がある」って言うんです。三河にわからないなら、
俺にわかるはずもないんですが、いちお「どのあたり」って尋ねました。

したら、「ドッペルゲンガーの出てくるあたりだよ。お前そういうオカルト系のこと詳しいだろ」
逆に質問をされまして、で、わかることは説明しました。
ドッペルゲンガーとバイロケーションの関係とか。ああ、バイロケーションはご存知ですよね。
同一の人間が同時に複数の場所で目撃される現象のことです。
これでもし自分でもう一人の自分を見てしまった場合、
ドッペルゲンガーって呼ばれるんじゃないかとか、見た人は死ぬという言い伝えがあるとか。
アメリカ大統領のリンカーンがそうだったって言われてるし、芥川もそうです。
ただ、こういう説明だけじゃあんまりなんで、薬による幻覚説も強くある、
芥川も睡眠薬の常用者だったことなんかもです。まあさすがにそれは知ってましたけどね。
そのときは、真面目一方できたやつだから、
こういうところで引っかかるんだろうくらいに考えてましたけどね。

で、夏休みが過ぎて、9月にまた卒論の報告会がありました。
そしたら三河のやつますます痩せてて、身長は175くらいだったけど、
体重は50kgもなかったんじゃないかな。他のやつらも驚いてたし、気味悪がってました。
顔色がね、すごい青かったんです。青ざめたなんてもんじゃなく、
何かわざと色を塗ったみたいに。でまた俺が「ちゃんと飯食ってるか」って聞くと、
「食ってる食ってる、食費がかさんでしかたないくらい」って。
こりゃ病気だと思いますよね。でもね、その日も学食で、
大盛りカレーと大盛りラーメンを完食したんです。それはさすがに俺でも無理なんだけど、
平然としてまして、「まだ食い足りないくらい」って言ったんです。
卒論のほうは「ドッペルゲンガーはなんとなくわかってきた。あれって河童だよ」って。
意味不明でした。たしかに芥川は「河童」という作品も書いてますが、

ドッペルはドイツ系の話だし、河童は日本の妖怪でしょう。
ちゃんと整合性がとれるようにつながるのかどうか。ま、論文の読みあわせがあるんで、
そのときにわかるだろうと思ってましたけど。別れ際に、
「そんだけ食えるなら心配ないかもしれないけど、いちおう医者にいったほうがいいぞ」
とは言ったんですよ。で、10月に入りまして、最後の学祭がありました。
4年生はやることはないんですけど、構内をぶらぶらしながら、
後輩のやってる模擬店をはしごしてひやかしてました。
図書館の前がイベント広場になってて、舞台をつくっていろいろやってたんです。
バンドが多かったけど、そのときは大食い大会をやってまして、
何とそれに三河が出場してたんです。驚きました。そういうタイプじゃないんです。
でね、学生だから元手のかからないウドンの大食いだったけど、何と三河が優勝したんです。

相変わらず顔は青く鶴みたいに痩せてましたが、30分でウドン14袋食ったんですよ。
終った後、商品をもらって戻ってきた三河に声をかけました。
腹はほとんど出てなかったです。「すげえじゃねえか、俺なんて3玉がせいぜいだ」
こう言いましたら少し笑って、「最近、腹の減りがますます激しくなって、
 出るつもりもなかったけど、食費が浮くかと思って」こう言いました。
その後真顔に戻り「今なあ、うどん食いながら下の席を見てたら、俺がいたんだよな」
こうポツリと言ったんです。「なんだよ、ドッペルか?」
「うーん、俺に姿を変えた河童かもしれない。ドッペルを見たら死ぬって言うけど、
 ドッペルに化けた河童なら大丈夫だよな」・・・ヤバイでしょう。
このときね、これは絶対悪い薬に手を出してるんだって思いました。
ちょうど、合法ハーブとかの出始めの頃だったんです。でも、そうは口に出しませんでした。

でね、12月に入った初めのあたりです。
もう卒論はほぼ完成してなくちゃならないんだけど、俺はまだで少しあせってました。
そのときも部屋でシコシコ書いてたら、携帯に着信があって、
珍しく三河からでした。でね、内容が「これから河童を捕まえに行くから見にこいよ」
って・・・「お前、今どこにいるんだ?」 「入間川の河口付近。製紙工場の見えるあたり」
でもね、そのあたりの川というか、県自体にも河童の伝承なんてないところなんです。
ふざけてるのかとも思ったけど、口調が真剣だったんで、
「わかった、今からチャリで行くから」こう答えました。場所はだいたい知ってたんで、
近くの橋の上で待ち合わせることにしました。行ってみると、
三河が欄干に寄りかかって下を見てまして、「おい河童いたか?」
こっちが冗談めかしてそう叫ぶと、黙って下を指差しました。

そしたらね、30mほど向こう、護岸のコンクリから1mほど離れた浅いところに。
青っぽい人がスネまで水に入って立ってたんです。細部はわからなかったけど、痩せてて、
三河に似てる気がしました。「あれが河童か? 服着てるじゃね」こう言うと、
三河はいらいらしたように、「下に降りるぞ」とだけ言って、
橋を渡って土手に向かったんです。俺が後を追っていくと、三河はその人物?
がいるあたりから、ダイブするように土手を駆け下りていったんですよ。
「おい、待て危ないぞ!」そう叫びましたが、一面の枯れすすきですぐに三河の姿は見えなくなり、
俺は躊躇して下りられなかったんです。何がどうなってるか見えるように、
土手の標識につかまってガードレールの上に立ちました。
そしたら、ススキの切れ間から三河が飛び出し、川の中の人物に跳びついて、
折り重なるように水の中に倒れ、しぶきが上がりました。

「ああ、マズイ」どうしようもなくて、俺もススキの中に飛び込み、
半ば転げるようにして川岸まで下りていきました。コンクリの川縁まで行くと、
川上も下もずっと見渡せるんですが、どこにも人の姿はなかったんです。
ほかんとしましたよ。冬枯れで水は少なく澄んでいたので、
人が2人も倒れてたなら絶対わかったはずです。それが影かたちも見えず、
水の濁ってるとこもなくて・・・ただね、縁のコンクリの上に携帯が一個載ってて、
それが三河のものだってことはわかりました。拾い上げると、水がしたたってきましたね。
え? 三河からの着信ですか? もちろん残ってましたよ。とにかく、
人が川に流された可能性があるので、警察に連絡しました。
事情を話して捜索があったんですが何も見つからず・・・俺の虚偽通報と疑われたかもしれません。
でも三河はそれ以後行方不明で捜索願が出たんですが、いまだに手がかりもないんですよ。

遊戯王カード ドッペルゲンガー






関連記事
スポンサーサイト




トラックバックURL
http://scoby.blog.fc2.com/tb.php/964-a34a48b2
トラックバック
コメント
管理者にだけ表示を許可する