FC2ブログ

恋の歌の話

2015.11.25 (Wed)
今日も怖い話ではありません。今、仕事で稚内に来ていますが、
信じられないほど寒いです。地元の方には、
「アマイアマイ」と言われましたが。 それで今日も軽めのお話で。
内容的には、「怖い古代史」に入るでしょうか。

「歌合(うたあわせ)」というのをご存知でしょうか?
歌人を左右二組にわけ、その詠んだ歌を一番ごとに比べて優劣を争う、
平安時代の典雅な遊びです。もしかしたら、
現代の紅白歌合戦などにもつながるのかもしれませんが、
男女に分かれてというわけではありません。

主に宮中で行われ贅を尽くしたと言われますが、
そこはそれ、歌とはいえ勝敗を競うものですし、氏族の権力争いの
激しかった平安時代のこと、けして優雅なだけではなかったようです。
この歌合の中で最も大がかりであったと言われるのが、
天徳4年(960年)の「天徳内裏歌合」です。

左右にわかれた左方が、当時の世を席巻していた藤原氏チームで、
多くの有力歌人を事前に陣営に引き入れ。
右方はこれに対し、少数精鋭で挑むことになります。
このあたりの政治的な事情は複雑ですが、長くなりそうなので割愛します。

試合の期日は3月30日(現代暦の4月28日)夕刻より。村上天皇の御代でした。
判者(はんじゃ)これは歌の優劣を決める審判のことですが、
左大臣藤原実頼、その補佐に大納言源高明、
講師(こうじ 歌を読み上げる役)は左方が源延光、右方は源博雅。

おや、どこかで聞いたことのある名が出てきました。
そう、源博雅は、夢枕獏氏の『陰陽師』における安倍晴明の相方、
ワトソン役です。笛の名手であり、武にも強い上級貴族として登場します。
二枚目ですが、どこか抜けたところのあるキャラでもありました。

ここで、源博雅が失態を演じてしまったことが記録に残っていて、
3番の歌のときに間違えて4番を詠んでしまいました。
それでたしかその番は反則負けになったんじゃなかったかな。
その後は動揺のため、声が震えてうまく詠めなかったそうです。

『陰陽師』の博雅像と重ね合わせると、いかにもというエピソードですが、
このあたりのことも知っていて、夢枕氏は冷徹な晴明の相方に選んだんでしょう。
夢枕獏原作、岡野玲子作 『陰陽師』(白泉社)第7巻に、
歌合の詳しい様子が出てきています。

さて、この歌の題材というのは1ヶ月前から伝えられていて、
あらかじめお題に基づいて作られています。
で、結果としては左方の藤原チームの10勝5敗5引き分け、
圧勝という形で終わったのですが、夜も白みかけた第20番、
最後の歌は伯仲の闘いになりました。お題は「恋」です。

左:壬生忠見
・ 恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思ひそめしか
(恋をしているという私の噂は、早くも広まってしまったよ。
 人に知られぬよう、その人を思い初めたのに。)

右:平兼盛
・ 忍ぶれど 色に出でにけり わが恋は 物や思ふと 人の問ふまで
(耐え忍んでいたのに、私が恋をしていることは気色に現れてしまったよ。
 何か物思いをしているのではと、人が尋ねるほどに。)

どちらも百人一首にとられているので皆さんもご存知でしょう。
「人に知られてはいけない恋、忍ぶ恋」という似たような主題になりました。
両者とも秀歌で甲乙つけがたいのですが、
みなさんはどちらの勝ちと思われますでしょうか?

まあ、こういうのは理屈で解説してもしょうがない気がしますし、
人それぞれの感性に訴えかける部分もまた違うと思うのですが、
自分はどちらかといえば壬生忠見のほうが好きです。
実際、場は紛糾、議論白熱したため、
講者の藤原実頼は引き分けにしようと考えましたが、

御簾の中で村上帝が兼盛の歌を小さく口ずさんでいるのが聞こえ、
これを尊重する形で右方の勝ちとなりました。
これはもしかしたら、左方圧勝の勢いなので、最後は右に花を持たせよう、
という天皇の意図があったのかもしれませんね。

さてさて、この後、負けたことを恨みに思った壬生忠見は気鬱になり、
自ら食を断って衰弱死したという説があります。
死後、忠見の亡霊が「恋すてふ」の歌を口ずさみながら内裏に立ち、
それを安倍晴明が祓うというのが『陰陽師』での筋立てです。
『今昔物語』のエピソードもからめて、たいへん巧妙な作品になっていました。

ですが、この日の勝敗でいえば、壬生忠見は1勝2敗1分ですし、
相手の平兼盛は4勝5敗1分で、出だし3連敗もしています。
それほどの遺恨が残るかなあという気もします。また、
一流歌人であれば相手の歌が優れているのもわかったでしょうしねえ。
しかも資料的には、忠見のその後の晩年の歌も残っていますので、
これは面白エピソードと言うべきものなのでしょう。






関連記事
スポンサーサイト




トラックバックURL
http://scoby.blog.fc2.com/tb.php/968-83979900
トラックバック
コメント
管理者にだけ表示を許可する