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お面の話

2015.11.29 (Sun)
20歳です。高校を卒業してからアルバイト生活です。よろしくお願いします。
2週間前の日曜日のことです。午後の早くに、近所のスーパーに買い物に出たんです。
それで、レジを終えてから、トイレ前のベンチに座って少し休んでました。
その数日前から、肩が重くてしかたがなかったんです。そのときは喉も乾いてまして、
自販機でお茶を買って飲んでましたら、トイレのほうから、
母親に手を引かれた3、4歳くらいの女の子が出てきまして。
私のほうを見て目が合ったので手をふったんです。
そしたらその子は、固まったような表情をして一歩後ろに下がりました。
そして私のほうを指差すと母親の顔を見、何か言ったんです。
母親はたしなめるようなことを女の子に話しかけ、外に出ていこうとしましたが、
女の子はずっと、私のほうを注視して指差したままでした。

おかしな子だなあ、と思いながらふと肩ごしにふり返りますと、
ベンチの後ろはすぐ壁なんですが、そこに顔があったんです。「えーっ!」
と叫んでベンチから立ち上がり、跳び離れてもう一度見ると、
ベンチの人の座った肩ほどの高さに、たしかに顔が浮きだしていたんです。
でもそれは、生きた人間の顔ではなく、しかも見覚えがあったんです。
はい、どういうことかと言いますと、能面です。
「おきな」と呼ばれる、ひげの長い笑ったおじいさんの顔の古びた白木のお面。
見覚えがあるというのは、私が12歳までいた実家の一室に飾ってあったのと、
同じものに思えたからです。お面は数秒間そのままでしたが、
やがてゆっくりと壁に沈んでいきまして、埋もれるようにして消えてしまいました。
それと同時に、感じていた肩の重さが少しやわらいだ気がしました。

その実家というのは、ある地方の旧家で、
家のあちこちに古い高価なものが置いてありました。
部屋も和室だけ10間以上あったはずです。その中で、
普段入ってはいけないと言われる部屋あいくつかあり、その中の一つの床の間に、
そのお面が飾ってあったと思うんです。あ、飾ってあったと言いましたが、
お面は直接、額の部分を壁に釘で打ちつけられていたんです。
そういえば、そのとき見たのも、額の部分に黒い穴があったので、
間違いなく同じものだと思います。私がそれらの禁じられていた部屋に入るのは、
お正月のときだけで、一家揃って床の間の前に並び、
三宝にのせた塩とお神酒を捧げて、当主の祖父の後に一礼する、
そういうしきたりがあったんです。

あ、はい。その実家を出たのは、母と祖父との折り合いが悪くなったからです。
母はその家の娘で父が入婿だったんですが、
私が小学校6年生の1年間、ずっといがみあいをしていまして、
中学入学を前に、とうとう東京に引っ越して別居することになったんです。
もちろん父は仕事を探さなければなりませんでした。
実家にいるときは、関係のあった地元の工務店で働いていたのが、
それを辞めなければなりませんでしたから。ええ、そんな感じで越してきたので、
ずいぶん苦労をしたんです。・・・わけがわかりませんでしょう。
何年もたってるのに、急にあのお面が壁に出てくるなんて。
それとこのことは、私の肩が重いのと関係があるんじゃないかとも思いました。
あと、そのとき女の子にはお面が見えてたのに、母親には見えなかったみたいでした。

これも不思議です。それで家に戻って、仕事が休みだった母にこのことを話しました。
母はお茶を飲んでゆっくりしていたんですが、私の話を聞くと顔色が変わり、
固定電話で実家に電話をしました。ええ、携帯は持っているんですが、
実家とは固定電話でしかやりとりしてないんです。
そもそも両親と実家を出てから、つき合いはないに等しかったんです。
お盆やお正月にも帰りませんし、ことらからも向こうからも連絡はしません。
つき合いを絶っている状態だったんです。母は長い間話し込んでいまして、
ときおり電話の向こうの相手が代わっているようでした。
私は近くに立って見ていたんですが。きれぎれに「開かずの間のしわうち」
という言葉が出てきまして、あのお面のことじゃないかと思いました。何度も相手が代わり、
沈黙の間が入りながら1時間以上電話で話して、母は受話器を置きました。

それで私に向かって、「おじいちゃんが死んだよ」と言ったんです。
そのときは、祖父は前に亡くなっていたのを実家のほうで連絡してこなかったんだろう、
と思いましたが、そうじゃなかったんです。
母が電話をしたとき、最初に出たのが祖父だったんです。
それでお面を私が見たという話になり、祖母に電話を代わって祖父は部屋に見にいきました。
踏み台を置いてお面に触れようとしたとき、心臓の発作が起きて、
そのまま転げ落ちて事切れたということみたいでした。
ええ、すべては後になって聞いたことです。実家のほうは母の弟、
長男が後を継ぐ予定だったんですが、その長男夫妻が救急車を呼び、
祖父は病院に運び込まれていたんです。
ええ、まだ亡くなったとはわからなかったはずですが、母はそう確信していたんですね。

私はもちろん母にいろいろな質問をしたんですが、何一つ教えてはもらえませんでした。
そのかわりというか、その日の夜のうちに、
父親の運転で2時間以上離れた神社へと行き、家族でお祓いを受けたんです。
そのときに一人一人が、肌身離さず大切に持っているように言われて、
御守のようなものを渡されました。細長い和紙に包まれた何かで、
袋の御守よりずっと大きく、つねに身につけているのは大変そうでしたので、
私はバッグに入れて持ち歩いていたんです。
帰りの車の中で、母が「あんな祀りごとをするから、おじいちゃんは毒にあたってしまった」
こんなことを言いましたが、意味はわかりませんでした。続けて、
「今日はいいだろうけど、あと7日間が辛抱だから、その弊紙はずっと持ってなさい」
こう言われ、私はバイトを休ませられて、ずっと家にいたんです。

母はある新興宗教団体で事務をしていたんですが、しばらくはそちらには行かず、
毎日あちこち別のところに出かけていました。「あんたらには迷惑をかけられないから」
そう言って、祖父の葬式にも一人で出かけたんです。・・・7日間が過ぎようとしていた、
最後の夜のことです。11時過ぎですね。ネットをしてましたが、
飽きてきてベッドに入ったんです。でも、その日は昼寝をしてしまったので、
なかなか寝つけませんでした。明日からバイトも再開するから寝なくちゃ、と思っていると、
ヒョー。ヒョーという笛のような音が聞こえてきました。
中空のあたりからです。電気を消して寝るので部屋は暗いんですが、
そのほうを見たら、顔の上1mほどに白い煙のようなものがありました。
それがだんだんに形をなしていって、あのお面に変わっていったんです。
怖い、と思い布団をかぶろうとしたんですが、体が動きませんでした。

お面は、笑った口元のはずなのに、なぜかすぼまっていて、
そこからヒョーと息が漏れているみたいでした。そして一瞬に重なったんです。
ええ、目をつぶったおじいさんの顔です。これは木造りじゃなく本物の人間のおじいさん。
でも、生きた人じゃないと思いました。はい、長いこと顔を見てませんでしたが、
先日亡くなった祖父の死に顔だと思いました。顔はお面とぱっぱっと切りかわり、
生きてないはずの祖父の顔の口元もすぼまっていました。それでお面に戻ったとき、
すぼめた口から「しわよせる」そう聞こえる言葉が出てきたんでうす。そのとき、
机の上でボウンという音がしました。ええ、あの御守を置いていたんですが、
真っ白に光って燃え上がっていました。体が動いたので悲鳴を上げました。
ややあって両親が部屋に駆け込んで来、母が机の上でぶすぶす煙を上げている御守を見て、
一言「終わったみたいだね」と言いました。やはり何の説明もなかったです。







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